警備員の立つ入口で彼らにIDカードを見せると、佐久間主任はさくさくっと奥の廊下へと進んで行く。

「奥が支社長室だよ」

佐久間主任が重々しい扉をノックする。

「どうぞ」

こ、これは!!

が、がぢょおのごえだぁ。

コホン、失礼。

緊張のあまり、心の声まで裏返ってしまった。


ゴクリと唾を飲み、「失礼します。杉原さんをお連れしました」という佐久間主任の後に隠れるように続く。

ほぇ~!生(なま)課長だよぉ!

ビシィィィィっとしたスーツを着こなし、その佇まいには大人の男性の色香がすら漂ってるじゃないですか。

ちくしょう!

やっぱり、ええ男じゃ~。

しかも、その課長がこっちに向かって歩いてくる!

心臓がズンドコズンドコ、ブラジルのサンバのように乱舞する。


「ご苦労だったな。早速だが佐久間君、このJGB(日本の国債)のカオスの設定だが……」


課長は、まるで私のことが見えないみたいに、佐久間主任のもとに歩み寄る。


心臓サンバは瞬殺。


……それだけ?

遠路はるばる~来たっていうのに!?

一瞥しただけで、しかも「ご苦労だったな」だけ?!

「じゃ、データの反映をした最新版を4時までに出して欲しい」

「はい」

佐久間主任が心配そうにチラリと私を見るとそそくさと部屋から出て行ってしまう。

ふ、ふたりきり?

佐久間主任が出て行った後の扉を見つめていた課長と私の目線がガチンコにぶつかってしまう。

やーん。

目が合っちゃったよーん。


心臓サンバチームが慌ててムクリと立ち上がり、再びズンドコダンスを踊り出す。