翌日、課長からは『無事着いた』の相変わらず、事務連絡モードのメールが届く。

ケータイをパタンと閉じ、そのままベッドに突っ伏す。


ムリ。


返事なんて書けないよ。

ってゆうーか、そもそも私ってば課長のカノジョであるのかどうかも怪しい感じがしてきた。

キスごときで浮かれていたけど、あーゆー大人の男性にとっちゃキスなんて朝飯前……じゃなくて、挨拶代わりなのかもしれない。


「はぁ~」


ゴロンと仰向けになり、天井を見つめる。

課長が責任を取ってNYに行っちゃったことも、その後、実績を買われて提携先のバンカメに移籍を要請されていたことも、私、なぁぁぁぁぁんにも知らない。



課長は何も言わない。

だから……知らない。

課長……

私、本当に課長のカノジョですか?

血の気、引きまくりで全然体に力が入んないよ。

顔を手で覆っていると、枕元のケータイがブルブル震える。



『どうした?』


課長からのメールだ。

続けてのメールなんて珍しい。

でも、こんな気持ちを抱えたままメールなんてできない。


ブランケットを引き上げると、ベッドの上から何かがドサッと落ちる。

慌てて手を伸ばし、勝負下着セットが入った可愛いいピンクのビニール袋を拾い上げる。

旅行用のトランクから出して、タンスにしまい忘れていた子達だ。


「ごめんね、お前たち。とうとう登場する間もなく、終わっちゃうかもしれない」


人が感慨に浸っている時に、課長から再度メールが来る。


『生きているか?』



…………なに、殺してるんですか、課長。


そっか。

なんか笑える~。

私、今まで課長からのメールが待ち遠しくて、もらったらすぐに返信していたんだよね。


どんだけ、課長ラブなのよ。


課長。

だけど、それだけ私、課長のこと好きだったんだよ。

すごくすごく好きで……

こんなに自分以外の誰かを好きになることなんて生まれて初めてだったんだよ。


なのに……。

私、課長の何なんですか?

もう、ムリ。

ムリだよ、課長。

ひどいよ。

もう……ついて行けそうに……ない。

っつーか、こんなの『彼女』って言わないっしょ?


仰向けで顔を覆う指の隙間から涙が零れ落ちる。


ああ。

ザンネン。

こんな時に思い出す課長の顔は、初めて仏頂面じゃなくて、最後にキスした時のセクシーフェイスだ。


私はケータイを開くと震える手でメールを打つ。




『課長、すみません。私、彼女やめます』