「君、マジでサイアク」

佐久間主任はブツブツ文句を言いながら、私が近くのコンビニで買って来たゴミ用ビニール袋で、びしょ濡れの体を包むとタクシーに一緒に乗り込む。


「すみません!本当にすみませんでした!!」

「いいよ。もう……」


散々文句を言っていた佐久間主任が急に黙り込み、やがてポツリと口を開く。


「でも、ようやく分かったよ」

「佐久間……主任?」

「奥田さんが君をかばった訳が」

「かばった?」

「君が入社したての時、400の商いを失敗しただろう」

げっ。

半年経った今でもそれを言いますか?佐久間大明神様。

もう忘れたい黒歴史なのに。


「奥田さんは、君をトレーディング部に置くために上層部から交換条件を出されたんだ」

「えっ?!」


交換条件?

何のこと?

佐久間主任の言っていることが分からなくて、バカみたいにほげっと主任の顔を見る。

街の灯りが車の中を照らしては消えていく。

何だろう。

なんだか胸騒ぎがする。


「杉原君は知らないだろう。
タスク・フォースなんて言うのは詭弁で、本来はただの捨て駒だったんだ。
経営の立て直しに失敗すれば、真っ先にリストラの憂き目に会う。
誰だって選抜されるのを恐れてたんだよ」

「課長は選抜されたんです……よね?」

「答えは正確にはノーだ」


えっ?

正確には、ノー??

頭がパープーになりそう。

訳、分かんない。

「奥田さんがタスク・フォースとなって結果を出すから、君のミスをチャラにしてやって欲しいって条件付きで立候補したんだ」

「ちょ、ちょっと待って下さい!
それだったら、私がその後、初商いをしたことであの一件はナシになったんじゃなかったんですか?!」

「君ね……400億だぞ。そんなことくらいでチャラになるほど現実は甘くないよ」

「そ……んな……」


ズゥーーンと血の気が引く。

「だけど、凄いよな、彼は。実際に結果を出しているし。
NYに渡って3カ月で、赤字続きだった支社を大幅に黒字転換させたんだもんな」

隣で呟く佐久間主任の声はもう私の耳には入って来なかった。