「座れよ。目立つ」

佐久間主任に言われ、座ろうとしたけど、時すでに遅し。

みんなの注目を浴びてしまう。


「えっ？！なになに？杉原ちゃんも『株トレの主張』に参加するの？」

マイクを持った横田氏が千鳥足で私の方に近寄って来る。

「「「おおーーっ！！」」

「「「いいぞ！いいぞ！！」」」

会場がヤンヤヤンヤと盛り上がる。

株トレの部長の就任祝いと言いながら、結局、急用が入った部長は来れず、主役不在の飲み会は予想以上の盛り上がりを見せている。

「はい、マイクね。どんなことでも言っちゃっていいよぉ～。みんな酔っ払いだから、今宵限りの無礼講。会社への不満でも、愛の告白でもぉ～、全部ここで吐き出しちゃいなよぉ」

え～……

会社の不満、今のとこ、ないし。

給料安いけど、別に実力に見合ってるし。

じゃ……愛のコクハク……

いや～ん。無理じゃぁ～。

だけど、これだけ盛り上がっている会場を冷えさせては、女がスタルっちゅーもんよ。

マイクを持ち直して、気合を入れる。

「ボントレを代表して、ここはいっちょ、歌いま～す！！」

腕をまくって、マイクを両手で持った瞬間、なぜか「げっ」と呟きＫＹ横田が蒼ざめる。

「いいよ。お前は座ってろ！」

佐久間主任が慌てた様子で私の手からマイクをもぎ取る。

「なんだよ～。佐久間ぁ～。お前は引っ込んでろよ！」

佐久間主任の同期らしき株トレの悪友たちから非難の声ゴウゴウ。

そんなのお構いなしで、佐久間主任がマイクを持ったままユラユラと立ち上がる。

だけど……

気のせいかもしれないけど、佐久間主任の目が据わっているような気がする……？


「ったく、お前らなぁ～。どんなにオレが杉原を好きでもなぁ～、彼女のひっでぇ音痴はジャイアンが好きなんだよ！」


はぁっ？？


お～い！佐久間主～任、言ってることが意味不明なんですけど？

「「「おお～！！いいぞ！！いいぞぉ！！」」」

「「「そぉだそぉだ～！！」」」


ええっ！

なななんでぇ？！

盛り上がっちゃってるよ。


みんなも何でも良かったらしい。


酔っ払いっちゅーのは意味不明な発言に寛大らしい。


佐久間主任は皆の拍手に気を良くして両手を挙げて応えてる。


「Thank you！Danke！
Спасибо за внимание.（スパシーバ　ザ　ブニマーニエ）」


佐久間主任はマイクを降ろすとそのまま強引に私の腕をガシ掴む。

「行くぞ。立てよ」

「さ、佐久間主任⁈」


そして、抵抗する間も与えてくれないまま、飲み屋から大股で連れ出してしまっていた。