私が今どこにいるかと言うと、奥田課長の運転する車の中だ。

しかも課長は車に乗ってから一言も喋らない。

車の運転は紳士的で、チョーナイスだけど、怒っているのは間違いない。

隣に座ってる私にその怒りの波動が伝わって来るもん。



フツー、上司って部下が失敗したらガミガミ小言、言うよね。

だけど、奥田課長は言わない。

だから恐い。

あり得ないくらい恐い。


しかもこのクルマ、段々、人里離れたところに行ってる感じがして、背筋に震えが走る。

良く良く見ると、なんか、来た時の道と違ってるし。



もしかしたら、どこかの山奥の山林に連れ込まれて、ドスッと背中から刺されて埋められるとか……

死体が上がらない深い湖に突き落とされるとか……

この鬼課長。
本当は本物の鬼で、私を頭からバリバリ食っちゃうとか……


ありうる。


ああ……

でも、そんくらいヤラレたってイイ位のミステイクしちゃったんだもん。

しょうがないよね。


せめて、遺書くらい書かせてくれるかな~なんて。


はぁ~。


課長の横顔に、こりゃ、無理だろなって諦める。


課長は無言で、しかもすごいしかめっ面で運転してるし。



あ~あ。

一度くらい、親の勧めるお見合いでも、しとくべきだったよ。


小中高大とカレシも出来ず、キスもエッチも未経験で、この世と「ハイ、おさらばよ」って、悲し過ぎる。


結婚して、家庭も持ちたかったけど、ハカナイ夢だったね。

「おい。メシ、食うか?」

「はっ、はいっっっ!」

ドスの利いた課長の声に思わず体が飛び上がる。