奏と別れた…という噂はあっという間に広まったし、夏休み前という事もあって、あたしは、最近よく告白をされていた。



簡単に「はい、わかりました。付き合います」なんて言えないし…


お断りするのも辛い…




あたしは、ローファーに履きかえて、校庭にでた。


あまりにも陽射しが強くて、俯いた。




後ろから二つの足音がする。




「お♪千秋〜!」



振り返るとリョウ先輩と奏がいた。




あの日以来、奏には会ってなかったから、どういう顔をしていいかわからない…



「……」



「……」



「俺達今から寄り道するけど、千秋もどう?」



リョウ先輩…空気よんでよ。



「あたしは…帰ります」



「えぇ?!いいじゃん!!行こうよ!」



リョウ先輩は無理矢理あたしの手を引く。



「…俺帰るわ」

奏はそう言うと、あたしとリョウ先輩の横を通り過ぎて行った。




「奏!!待てって!!」



リョウ先輩はあたしの手を掴んだまま奏の元に走った。




「お前も行くの!いいよな?千秋?」



あたしは「別に…」と答えた。




−−−−−−−


三人でファストフード店に入った。



久々に奏の顔を見た。



胸の奥がキュンとする。



今すぐに触れたい…


抱きしめて欲しい…



なんて考えてしまう。




「おっ!ちょっとツレから電話!」

リョウ先輩が携帯を持って席をはずす。





「……」



「……」



言葉が出ない。



すると、奏が口を開いた。

「…髪…だいぶ切ったんだな」



「あ…うん。」


あたしは髪を触りながら答えた。



「…ピアス」



ビクッ



ピアスという単語に過剰に反応してしまった。



「…ピアス空けたんだ?」



「…うん。」



「……」




「あぁ!!もう!!!」




奏が突然頭をかきながら叫んだ。




「千秋!!!行くぞ!!!」




「え?!」




「早くしろ!」




奏はあたしのバッグを持って立ち上がる。




電話から帰ってきたリョウ先輩に


「わりぃ!リョウ。千秋連れてくわ」



「はぁ?!」




リョウ先輩は呆れていた。




気が付いたらあたしは奏に手を繋がれて、店の外に出ていた。




「そ、奏!待って!!」



「待たない!!」



「どこ行くの?!」



「俺ん家!!」



「ヤダよ!!ちょっと!!」



あたしは手を離そうとしたけど、奏は一層力をこめて握った。



「もう離さない。」




奏は真剣な顔であたしに言った。






奏のマンションに着く。



あたしは奏の部屋に入るのを躊躇っていた。




奏は何も言わず、あたしを部屋に押し込んだ。




あたしは玄関で立ち尽くす。




「早く入って」




奏に促され、渋々部屋に入る。




リビングに入ると同時に
奏にきつく抱きしめられる。




「千秋…」




小さな声が耳元から聞こえる。




「俺、やっぱり千秋を離したくない」




奏の力の強さにクラクラする…




「…離したくない。誰にも渡したくない…」




「……」




「千秋…もうダメか?」




あたしは…




あたしは…




「…もう…絶対嘘つかない?」




「つかない」




「…ホントに?」




「ホント」





あたしは、奏の首に腕をまわした。




「じゃぁ許す」





ホッとした顔をする奏に
あたしからキスをした。




「ごめんな…千秋」



「もうこの話は終わりにしよ」



「わかった…じゃぁ…」




「今すぐ千秋ちょうだい」


そう言って奏はあたしを抱きかかえて寝室に連れて行った。




ベッドに降ろされて、あたしの髪に触れる。



「これくらいの長さも可愛い…」




あたしは奏の熱っぽい視線にドキッとした。




ギュッと指を絡ませて、あたしたちは唇を深く重ねた。




奏の体温があたしの体温を上げていく…



あたしたちは目一杯愛し合った。




「…千秋…愛してるよ」




「あたしも…愛してる」







翌日。


今日は終業式。



校門をくぐると、その場にいる生徒全員の視線を浴びる。




別れたはずだった二人が、手を繋いで登校しているから…



あたしも奏も顔をあわせて笑う。



「俺達どんだけ有名人なんだよ」



「ホントに…」




「朝からムカつくんですけど?」




あたしたちの間に割って入ろうとするリョウ先輩。




「コラッ!リョウ!邪魔すんな!!」




「いや…俺は邪魔するぞ!!俺の千秋を返せっ!!」



「いつお前のになったんだよ?コイツは俺のだし。」



奏は挑発するようにあたしを抱きしめて、リョウ先輩をチラ見する。




「あぁぁぁぁ!!!ムカつく×2!!!」



リョウ先輩は大声で叫ぶ。



「行くぞ、千秋!」


あたしと奏は笑ってそのまま走った。




−−−−−−−


教室に入ると、ユリと太一があたしを見てニヤっと笑う。



「な〜に朝からいちゃついてんの?暑いしウザ〜〜イ♪」



あたしはエヘヘとピースする。



−−−−−−−

終業式はあっという間に終わった。



教室を出たらすぐに声をかけられる。



「や、山瀬さん!!」



「あ。高橋君!」



高橋くんはあたしと同じ委員会の子。
クラスは違うけど、顔を合わせれば話す間柄。



「あのさ、今度一緒にライブ行かない?」


とチケットを見せてくれた。


「わぁぁ!!このライブのチケット手に入らないヤツだぁ!!
凄いじゃん!!いいなぁ♪」


「行こうよ×2!!」



「…あ…「ごめんな?コイツ、夏休みは俺としか過ごさないから♪」



奏があたしの肩を引き寄せて言った。


高橋君は呆然としていた。



「行くぞ!千秋!!」



「ご、ごめんね!!」




あたしは高橋君にペコッと頭を下げて、奏について行った。


「千秋、夏休み予定は?」



「あぁ…何もないけど、バイトしよっかなぁって思ってる」



「バ、バイトォ?!」



「うん。毎日ダラダラしても仕方ないし…」



「もう決めたのか?!」



「まだだよ〜」



「バイトなんかすんなって!俺と毎日いればダラダラなんかしなくなるし!!」



「そりゃ奏とは毎日会うつもりだけど♪」



「っあったりまえだ!!
とにかく、バイトの件は保留っ!!」



「…はぁぁい」




「あ!言うの忘れてたけど、今日は千秋ん家にお邪魔するつもりだから♪」



「へっ?いきなり?」



「いきなりじゃないし。昨日、千秋のお父さんからMailあってさ。家においで〜って。」



「…聞いてないし。」



「…嫌そうだな…」



「嫌な訳ないじゃん♪」


…自分の家族と彼氏が仲良くするのは嬉しいに決まってるし♪


あたしは、「早く×2♪」と奏の腕に自分の腕を絡めた。




−−−−−−−


「ただいまぁ〜」

「お邪魔しま〜す!」



「お帰りぃ♪あら、奏くん、相変わらずカッコイイわね♪」

お母さんがリビングからチラっと顔を出して言う。



「お茶持ってくから、先にあたしの部屋入ってて!」


「はいよ♪」




−−−−−−−


ガチャっ



千秋の部屋のドアを開けると、部屋いっぱいに千秋の香りがした。



「相変わらずピンクが強い部屋だな…」



ベッドに腰掛けて、部屋をぐるっと見渡す。

女の子の部屋にしてはシンプルで必要最低限の物しかない。



「あ…」



ずっと見たかった物を見つけた。



…中学の卒業アルバム。




奏は何の躊躇いもなく開いた。


「何クラスあんだよっ?!」

分厚い卒業アルバムをパラパラめくる。


「13クラス?!どんだけマンモス校だっっ?!」

この中から千秋を捜すのは無理…


「本人に聞けばいっか♪」


奏は卒業アルバムを机に置いた。


「お待たせ〜♪お菓子も持ってきた♪」


奏はトレイいっぱいのお菓子を見て、


「太るぞ?ブヒっ」

と鼻を指で上げる。



「ちょっ、ちょっと!!勝手に卒アル見ないでよっ!!」



「まだ見てね〜し♪ってか、クラス多過ぎ!!」



「でしょ♪でもあたし、学年で知らない子いないよ?」



「すげぇな!俺なんて同じクラスのヤツでも知らないヤツいるのに…」



「ハハハ…」



「…んで?何組?」



「見る気?」



「当たり前♪…何組?」



「…7組」



「よしよし♪ラッキーセブンな♪」


奏はパラパラとめくる。

7組のページで上から順にあたしを捜す。



「あっ!!いた×2!!すげぇ♪中3の千秋だ!!可愛いじゃん♪やっぱ幼いなぁ」


「……」


「千秋…お前モテただろ。」


「軽くね」


「…認めるか?普通」


「だってぇ♪ホントだし」


「ドイツだ?告って来たヤツは!?」


「知りたい?」


あたしは意地悪に笑う。


「お前なんかに告るヤツの顔が見たいだけだ!!」


…あんたもじゃん…


あたしは各クラス毎に告白してくれた子を指差した。


「…おい×2。マジか!?」


「マジ♪」


「全部で39人って…軽く一クラスじゃね〜か!!しかもほとんどカッコイイし」


「…まぁね。あ、でも彼氏いたから…」


「…アイツだな?アイツはどこだ!!見せろ!!」


「…5」


奏は5組の雷太を見つけると、

「ガキくせ〜♪」

と大笑いした。


「学年で一番モテてたけどね〜」


「って、なんで5組のアイツがお前のクラスの集合写真に写ってんだよ!!
しかもお前にキスしてるとかありえねぇ!!」


「……」



「おい、千秋!キスしたいんだけど?」


「どうぞ?」


「おいで」


「しょ〜がないなぁ」



あたしは両手を広げた奏に抱きついて、

チュッとした。




その日は奏も一緒に夕飯を食べた。


お父さんもお母さんも、奏がお気に入りみたい…

なんだかすごく嬉しい。



「奏くん、今日は家に泊まっていきなさい♪」

お酒がまわったお父さんは上機嫌で言った。


「あ、千秋、夏休みの間、奏くんの家に住めばいいじゃない?ねぇ、お父さん♪」

「おぉ♪そうしろ×2♪多少は援助してやるし。
どうせ毎日会うんだろ?」

「い、いいの?!」

あたしは奏を見て喜んだ。


放任すぎる親に心から感謝…
毎日奏と居られるなんて…


「二人とも!!夏休みベイビーだけは勘弁だぞ?」

ガハハハハ… と笑い飛ばすお父さん…



「あ!それと…千秋、バイトしたいって言ってたわよね?」


「…あぁ…うん。でも…」

あたしはチラッと奏を見る。


「私の知り合いがカフェやってるんだけど、短期だけでもどうか…って!
お願いします!って言っておいたから♪」


「えぇ?!決めてきちゃったの?!」


「そうよ?ダメだった?」


「…う…ん。」


「10時から14時のランチタイムだけでいいって言ってたし、やっちゃいなさいよ♪」


「……」


あたしは俯いた。


「その時間だけならやれよ。」

奏が言ってくれた。


「…じゃぁ。お世話になろうかな」


「わかったわ♪後で連絡しとくから!
さ、二人ともお風呂入っちゃって!!」


お母さんは凄い事をサラっと言った。


「ふ、二人でって…」


「なんで?付き合ってたら二人で入るのが当たり前じゃない?」


「…はぁ…」


「んじゃ、遠慮なくお風呂いただきます!」


奏はそう言うと、あたしの手を引いてバスルームに向かった。


「あ…着替え持ってくるから、先に入ってて!」


「おぅ!俺のも頼むわ♪」


−−−−−−−


あたしの親は一体どんな神経してんだ…
年頃の娘の性をバックアップするなんて…

ま…有り難い…けど。


−−−−−−−


「入るよ〜」


一応声を掛ける。


「/////」


いつも奏の家で一緒に入ってるから、見慣れてるはずなのに…

自分ん家だと…なんか恥ずかしい。


シャンプーの泡を流してる奏があたしを見る。


「早くおいで。洗ってあげるから♪」


「…今日は自分でやります…」


「プッ!何照れてんの…」


「て、照れちゃうよ…」


奏はあたしの頭からシャワーを掛ける。


「俺も♪」



−−−−−−−

二人向き合って湯舟に浸かる。


「バイト…してもいいけど、直行直帰だからな?
ってか迎えに行くから。」


「うん!」


「それと…男の客には近付くな!無視しろ!」


「え〜?!お客さんを無視なんてダメでしょ?!」


「まぁ…給料もらう立場だからなぁ…
んじゃ、必要最低限の会話のみ許す!!」


「…承知!」


「バイト以外は俺といる事!!」


「もちろん!」


「毎日俺と風呂入る事!!」


「はい!!」


「毎日…Hする事!!」


「……」


「返事は?!」


「毎日…はちょっと…」


「…あぁ。お月様があるからな!」


…それもそうだけど。


「んじゃ、毎日キスする事!!」


「するよ♪」


「激しいヤツな?」


「……」


「嫌ならいいんだけど?」

奏はフイっと横を向く。


「嫌じゃないです…」


「よし!!」


って、あたしをひょいと持ち上げて、奏に跨がらせるように座らせた。



「…コレ…ヤバイよね?」


「…あぁ。俺も今気付いた…このまま入っちゃいそ…」


「バァァァァァァカ!!!」


あたしが叫んだ声がバスルームに響いた。





「お風呂いただきました!」

奏がリビングの両親に声を掛ける。


「千秋!バイト、明日からみたいだからよろしくね♪場所は後でMailしとくからね!」


「はぁ〜い!じゃ、おやすみ!」


−−−−−−−


部屋に入って、テレビを付ける。


奏はベッドに横になりながら、また卒アルを食い入るように見ている。


「千秋、陸上部だったんだ?!意外!!」


「そぉ?」


「なんか鈍臭そうじゃん?」


「……」


「嘘×2。
てかさ…なんか俺の知らない千秋がいるって…淋しいなぁ。」


「でも。これからのあたしは奏だけが知るんだし♪」


「可愛い事言うじゃん♪」



奏は卒アルの寄せ書きのページを見る。



そこには大きい字で、


「俺の嫁になれ!千秋!By雷太」

…と、ある。



「ッチ!くそガキ…」



奏はパタンと閉じた。



「千秋おいで!」



「ん?」


あたしは、奏の元に行く。


グイっと腕を引かれ、あたしもベッドに横になる。



ギュ−−ッ!!



「どしたの?奏…」



「アイツが千秋の初めての相手なんだって思ったら、悔しくて。」



「…奏」



「もっと早くに知り合ってたら、千秋の初めては俺がもらってただろうし…」



奏はあたしのおでこに唇を付ける。



「そう言ってもらえると嬉しいよ…」

あたしは奏の唇に自分の唇を合わせる。



「千秋…スイッチ入りそ…」



「ダメだよ!!親居るし…」



「声出さなきゃ大丈夫…多分」



「えぇぇぇ?!」



「…千秋。高校卒業したら一緒に住もうな。」


奏はあたしの耳元で囁く。



「…うん。約束ね」



「千秋は俺の嫁になるんだからな?」



「フフっ♪プロポーズじゃん。」



「そうだよ?千秋以外考えられない…」



「…うん」



「さて…子作りの練習しよっか♪
声だすなよ?」


あたしはキスで返事した。