「鵺……?」
「……ああ、すみません」
心ここに在らずというような生返事が帰ってきた。
どうなら何か別のことを考えてるみたい。
あたしが名前を言ってから鵺はおかしい。
もしかして、知り合いだったとか?
「鵺?……あたしのこと、知ってるの?」
「……とにかく、また何かあったらここに来て下さい」
鵺はあたしの質問にはだんまりを決め込んだようだった。
そしてあたしに背を向けて、もう行けと言わんばかりの態度をとっている。
腑に落ちないけど、そんな態度をとられたらもうここにはいられない。
あたしはドアを押して寒い外に足を向けた。
あたしと鵺は前にどこかで会ったことあるの?
そうだとしても全然思い出せない。
年齢だって離れてるし、関わりを持ってた気さえしない。
武宏の衝撃なシーンや鵺の隠してることなんかが渦巻いて、心の中はひどく混乱していた。
答えが何1つ出てこなくて鬱陶しい。
ただ今分かることは、あたしはまだ武宏のことが好きだということ。
あんなに想いの通じあってる2人を見ても、諦めきれなかった。