「それで一体、どうなさったんですか?」
鵺は眼鏡を上げながら静かに聞く。
どうしたのかと聞かれても、ただここに来たくなっただけで他は特に理由が思いつかなかった。
強いていうなら鵺に会いたかったからだけど、そんなこと口に出す勇気はない。
「……ちょっと近くを通ったから、寄ってみただけ」
「それにしては悲しい表情をしておられます。……何かあったんでしょう?」
鵺は心配してくれてるのか、それともただの社交辞令で聞いたのかは分からなかった。
それでも今のあたしにとっては、そんな些細な一言でも嬉しい。
やっぱりここに来て良かった。心から安心できる。
「……ううん。何もないよ」
あたしはごまかすように笑った。心配かけたくて会いに来た訳じゃないから。
鵺はあたしのぎこちない笑顔を見て少し眉を潜める。
不愉快にしちゃったのかな……?
「ぬ、え……?」
「無理、なさらないで下さい」
……鵺は本当は優しい人なんだね。
正直見た目は冷たそうなイメージがあるけれど、人を気遣ってあげれるし苦しんでる人を見過ごすことなんてしないって分かった。
社交辞令なんかじゃないって、今ならそう言える。