「あの男をモノにするか、死の危険を回避するか、さあどうしますか?」
暗示か何かのように男の声が頭の中でぐるぐる回る。
この男が一体何を考えているのかあたしには理解できない。
それでもあたしの中ではもう結論が出ていた。
「あたし……過去に行く」
虚ろな返事を声に出してみたら、それをしなければいけないような錯覚に陥る。
自分で決めたのにそんな表現はおかしいかもしれないけど、迷いはもう一切断ち切られた。
「……そうですか」
男は無表情のまま言い放った。
「あ、今更だけどあなたの名前は?」
あたしが聞いたら店員の男は珍しいくらい笑顔になる。
「え、なに?あたし変なこと聞いた?」
「いえ……貴方様がそれを言うのを心待ちにしていました。私は鵺(ぬえ)と申します」
そんなに名前を聞いて欲しかったのかな、と少しだけ可愛く思えた。
けれど真意はしばらく後になってから気付く。
鵺という店員は優しく微笑んだ。
そんな顔見るの初めてだったから、意表をつく。
「笑えるじゃん」
「ええ、一応人間ですから」