「だって過去の自分なんでしょ?だったらいつ、どこで、何をしてるかなんて記憶に残ってるでしょ」
あたしは当たり前だというように威張りながら言った。
「……じゃあ貴方様は1週間前の夕ご飯を覚えていますか?」
「え……と、」
そう言われたら全く思い出せない。
一昨日の夕飯でさえ曖昧な自分に少し驚いた。
「人間の記憶なんて曖昧なものです。ましてや貴方様のような規則的な生活を送っている方なら尚更」
……本当にその通りだと思う。
毎日同じことの繰り返しで、些細な変化はあまり記憶に残っていない。
「……でも姿を見られちゃいけないって、過去の自分が混乱しちゃうからでしょ?」
「それもあります」
「それ『も』……?」
男は険しい顔つきになった。過去に戻れる変わりに、それなりの代償があるのかもしれない。