『過去のあたし』も今のあたしも、武宏たちから目が逸らせなくなっていた。

だって昨日見た時よりもっと親密そうで、もっと幸せそうだったから。


2度も見る羽目になった辛い現実に、頭がついていけなくなり軽く目眩がした。

けど今あたしがすることは、2人を見届ける事でも邪魔をする事でもなく、あの怪しい店を探すことだった。


逸らせない目を無理矢理動かし、空を仰ぎ見た。

星は見えなかった。


今にも脱力しそうなくらい泣きたくなったけど、あたしは昨日の自分に目をやる。

すると武宏が『あたし』に近付いていった。

『過去のあたし』、早く逃げて!


結末は分かってるんだけど、ついハラハラしてしまう。

やっと『あたし』は武宏に気付いたようで、逃げるようにあの古ぼけた怪しい店に入っていった。


それを確認してから、あたしはまた武宏たちを観察するように盗み見る。

手もしっかり繋いで、あれで恋人同士じゃない訳がない。


武宏の横にいて、手を繋いで、愛されてるのはあたしなんかじゃなかった。

あの子は優しさが滲み出ていて、守りたくなるような女の子。

あたしは……一直線に突っ走って、1人で浮かれたり落ち込んだりしてるただの茶番劇を繰り広げてた通行人。


……間抜けで、情けない。