上がる息を無理矢理抑え、家族を起こさないように自分の部屋への道を辿る。
今日だけでも、本当にいろんなことがあったなあ……
うかれ気分で買い物に行ってデート現場を目撃して、しまいには変な店に入って腕時計は買わされて。
部屋に戻ってその腕時計を見てみたらごく一般的なそれと大差はなかった。
デジタル式で曜日と時間が設定できるように、裏にボタンが2つついている。
色はシルバーだし華奢なデザインで女性向けな様だ。
あたしはそれを机に置き、ラフな格好に着替えベッドに頭からダイブした。
「はあ………」
今日の武宏、見たことないくらい嬉しそうだったな……
やっぱり……彼女、だよね……
2人が離れないようにと握り締めた手、笑い声が聞こえてきそうなくらいの笑顔と、彼女しか目に写っていない武宏の瞳。
幸せなことなんだろうけど、武宏が笑うほどあたしの心はズタズタに引き裂かれた。