鵺はまだ若いから未来もある。
今から勉強し直したら医者だって夢じゃない。
もし両親が反対したら、もし鵺の気が変わったら……
今はそんなことどうでも良かった。
少しでも戻ってくるって意志があるのなら、あたしは待ってたい。
「……っ、絶対…戻って、きてよ、ね……っ!」
鵺を見上げたあたしの顔はひどいものだったと思う。
目と鼻は真っ赤で化粧は落ちて、しまいには鼻水も出てきた。
「……っ」
鵺はついに固く握っていた拳を外し、あたしを強く抱き締めた。
温かくて優しくて鵺の匂いがする。鵺の鼓動と息遣いがして、この店、この場所にいるんだと実感した。
これからもうしばらくは感じられない鵺の体温が消えてしまわないように、ぎゅっと少しでも近くにいようと身を寄せた。