天国から地獄とは、
まさにこのことだ。
幸せな時間を、
過ごすはずだった二人に、
突然起きた悲劇。
特に加藤亜沙美の心には、
一生消えない刻印が、
刻まれたことだろう。


この時、
立花の中で、
怒りや悲しみ、
様々な感情が込み上げて
きていた。



そんな立花の心情を
察した須藤は、
立花に歩み寄り、
肩にのった雪を払った。

そして、
静かに口をひらいた。


「一瞬で人を暗闇に
陥れてまう。
人を傷つけるいうんは、
心をむしり取るんと
同じや。
どんな理由があっても、
そんな権利は、
誰にもあれへん。
悔しいなあ…
捕まえななぁ、
絶対に犯人を…
けどな立花、
俺達は感情的に
なったらあかんで。
俺達しか冷静な目で、
事件を見る事が
できひんのやから。
真実だけに目を向けな、
仇はとれんで」


ゆっくりと
優しい口調で語った
須藤は、夜空を見上げ、
白い息を吐いた。


立花を悟すように、
語りかけていた須藤だが、
本当は自分自身に、
言い聞かせていたのかも
しれない。


そして、
須藤はコートのポケットに
手を入れながらいった。
「ほな、聞きこみ行こか」


歩き出す須藤の背中を、
立花は追った。



見事な銀世界を、
造り上げた雪は、
いつの間にか止んでいた。