好きだ、とか

愛してる、とか


トオルの口から聞けたのは一度だけ。


付き合って初めてのクリスマスに、奥さんと喧嘩してトオルが家出した。


その時二人でいて


『好きだよ、響子』


あたしを抱き締めてそう言ってくれた、あの時だけ。


あたしより11歳も歳上の男


家庭を壊す気もなくて、一生二番目の覚悟はできていた。


「ありがと、あたしも幸せだよ。」


そう言って、またねって電話を切った。