『ごめんな響子、今日会えなくなったんだ』


電話口で、トオルは申し訳なさそうに言った。


「いいよ、夜間工事?」


ガス管の工事をするのが、トオルの仕事。


夜中に仕事するのも、最近は珍しくなかった。


トオルとは付き合って二年、不倫だった。


トオルには妻子があって、それを知ってて付き合った。


だから会えないのも、電話で声すら聞けないのも、慣れてた。


それが当たり前だった。


たまに残業だって嘘ついて、会う。


行く所なんて無い、ホテルだけ。


たったそれだけの世界の中で、トオルとあたしは恋に落ちていた。


『そう。夜間工事…ごめんな、最近会えてないよな。』

「大丈夫。気を付けてね」

『響子』


俺は幸せだよ、お前といられて…


トオルはいつもそう言ってくれた。