殴っちゃいたい


あたしは奥さんに背中を向けて、部屋の中に向き直った。


「ねえ、アンタさ。」


あたしの右隣に、嫌いな影が並ぶ。


「通夜も葬儀も、おいでね。来てやってね」


予想だにしなかった言葉に振り返る。


泣いていた。


「トオルね、アンタの事本気だったみたい。」


穂波さんが、泣き出した。


「好きだったんだろうね。最近ずっと、笑ってたの。家でも…仲が悪い訳じゃなかったの、でも夫婦じゃなかった…」


あたしの目の前に、白い布に包まれたトオルがいる


あたしの右隣には、その人の妻がいる


その夫は


あたしの最愛の人。


「私なんか、もう見えてなかったのよ。響子ちゃん…アンタしか見てなかったんだと思う」