「アンタ、誰?」


低く小さな声が、部屋に入ろうとするあたしを止めた。


肩までの茶色い髪、気の強そうな目。


一瞬で察知した。


`その人´は、あたしと孝之の後ろに立っていた。


「…穂波さん」


ホ ナ ミ


奥さんの、名前


「ねえ、アンタ誰?」


鋭い眼光が、あたしを捕えて離さない。


「穂波さん違っ…」


「トオルくんの女です。それが何か」


口をついて、その言葉が出た。


「響子って、アンタのこと?」

「そうです。齋藤響子です」


苦虫を噛んだような顔の孝之が、横目で確認できる。


「よく来れたね。本妻のあたしがいる所に」


冷静沈着な態度が、妙に鼻につく。