オリビアを宿に程近い場所まで送り届けたあと、ヴァイスは、人目を盗み、アンジェラが祈りをささげていた神殿に降り立った。

何か秘密があるとすれば
この場所だ。
ここにあるはずだ・・・。
そう睨んでいた。


音を立てぬ様に、すすむと、奥のほうで、男女の話す声がする。

誰だ?

この険しい岩場の、誰も来ないであろう場所に、人がいることもだが、その話す声は、消え入りそうに小さく、単なる密会や逢い引きといったものではないと判断する。

神殿の燭台に燈された
一本のろうそく。

淡い光が、二人の姿を浮き上がらせる。

「明日で、間違いないな?」

男の声に、問われる女は、主従関係にあるものなのだろうか?

「間違いございません。姫君が仰せでしたから。あす、オリビアという舞姫が、宮中で剣舞を舞うと・・・。」

男は、その言葉に、心底愉しそうに笑いをもらす。

「でかした。相手は、私の進言通り、覇王。しかし、あの嫉妬深さには、呆れるな。オリビアも不幸なオンナだな。」

男の台詞は、言葉と裏腹に、オリビアに何の感情も、もちあわせていない。