Magic Rose-紅い薔薇の少女-



「と、言いますと?」

「レディの事は“生まれる前から”知っていたことになる」

「なんということだ……」

「シャルディ、お前には命をかけてレディを守ることが出来るか?」

「はい。」

「では今夜お前はきっと……」



夜、私は寝る支度をしていた。
明日は春の日、それに備えて早く寝なくては、と。

「レディ」

「あら、シャルディどうかしたの?」

ぶるぶるとシャルディの小さな身体は震えていた。

「シャルディ?」

「私はもう、サラの二の舞はもうごめんなのだよ……」

「何を言っているの?」

「空をご覧、綺麗な満月だ」

シャルディ、今夜はなんだか様子が可笑しいわ……。
何かあったのかしら?

「よく目に焼き付けておきなさい」

「え?え??」

「それではレディ、おやすみ」

月を見ていると、段々、意識が薄れていった。
そして私は意識を手放し、眠りについた。



スイは月を見上げ、ただ静かにまっていた。

その時を…………。
始まりの時間(とき)を……。




時計を見る、エルザ。
針は23:20を指していた。

「シャルディ、お前の時間(とき)が動き出すぞ」





――時間(とき)を操りし少女の16の日……。


  時間(とき)は動き出す。
  止められていた者の同じ時間は終わり……。



  そして……



  新たな何かの始まり。





  ―第四章‐廻り出す時間(とき)―

あら?
何だか凄く変な感じだわ。

まるで誰か別の人の目から景色を見ているような……。


どこへ、行くのかしら……?
後少し、もう少し先まで……。


ガサッ
草を掻き分け、着いた先。

スイの居た泉だわ、何をするのかしら?
あら……あれはシャル、ディ……?

シャルディは泉に前足を出し、そして徐々に進んでいく。

そんなことしたら危ないわ!

水面を、歩いてる……!?

シャルディは振り返った、私の方を
ゆっくりと……

スゥッと、誰かの影と重なった。
人の影。

直ぐに前を向き直した。

もう、誰とも重なっていない……。
今……確かに……。


シャルディはいきなり進むのを止めた。
泉の中心……。

周りからバッと水が包み込む。

え!?

シャルっ……。

シャルディは水に呑まれた。

シャルディ――――!?



「シャルディーー!」

あら、夢……?

でも、そんな事……。


片っ端に家を調べ、ドアと言うドアを全て開け、隅から隅まで探した。

そして外に飛び出し叫んだ。

「シャルディ!シャルディ!!」

もう私は涙でぐちゃぐちゃだ。


「レディ!」

ガッと腕を掴まれた。

「うわぁぁん!」

おば様に抱きつき、泣いた。
おば様は優しく撫でてくれた。

そして……

「レディ、もう零時を過ぎた。春の日だよ……
16だ、おめでとう」

そうか、私の、誕生日……。


「レディ、シャルディを助けたいかい?」

おば様は真剣な口調になった。

「勿論よ」

猫と言えど家族。
大切な、大切な。

「レディ、いや……ローズ」

名前……。

「昔住んでいた家に戻りなさい」

「何故?」

「ネックレスを持ってくるんだ」

「わかったわ!」



私は走って向かった。
もう二度と戻れないと思っていたあの家……。

「はぁっはぁ……久しぶりね、この家も」

10年は長かったと、実感させられた。

家に入ると、
埃の被ったテーブルに色褪せたカーテン。

そして……

「お母様!!」

窶れ、すっかり老けてしまったお母様がいた。
大分、弱ってるみたい。

「お母様……」

「ロー、ズ?」


久しぶりの再会に抱き締めあった。

「こんなに大きくなって……」

「お母様、私……」

スッと立ち上がり、扉に向かう。

「お母様の娘でよかったわ、ローズ・フェイバリーであることを誇りに思うわ!」

そして私は急いで元、自分の部屋に向かった。

だから私、お母様が泣いてるのを知らなかった。
――「ローズ、違うのよ、ローズ……」
と。



「ないわ……」

お父様から貰った大切なモノだったのに……。

こんなことならあの時持っておくべきだったわ……。

「ネックレスならもうないわよ」

「お母……様」

「あの日、持っていかれてしまったわ。
“コレで勘弁してやるよ”って」

「そんな……」

無駄足だった……。
おば様、ごめんなさい……。

「ローズ、私はあの六年間……」

ぎゅうっと抱き締めてきた。
暖かい、でも、震えてる……。

「幸せすぎて怖かった。
知らない方がよかったのよ……
なぜ私はあの日、貴女を……


預かったのか……」


預……?

「ごめんなさいローズ……
貴女は私の実の娘じゃない……」

涙が出てきた。

私に、母はいないの?



「貴女は、ローズ・フェイバリーじゃない……」

嫌だ。
嫌だ。

止めて……それ以上は止めて……。

「いやっ、聞きたくないわ!私は、私はローズ・フェイバリーよ!!」

「聞きなさい!」

吃驚した。
こんな風に怒鳴られるなんて……。

お母様だって、辛いはずなのに……。

「貴女はね、ローズ・ヘルシオンなの」

ヘル……シオン?

私は、おば様の……?

「サラちゃんが殺され、貴女の命まで危うくなったの。
だからまだ幼い貴女を、お義姉様は弟夫婦に預けたの」

弟……?

「じゃあまさか……」

「貴女の考えてる通りだと思うわ。
私達夫婦に子供は無かった。だから好都合だったのよね……。
さぁ、お行き……」

「ありがとう!」

私は家に帰るべく走り出した。



エルザはローズの本当の母で
ランティスはローズの叔母。

ランティスの夫は、エルザの夫の弟で、魔力が弱かったため人間として生きる道を選んだ。


「おお、ローズ、帰った、か……」

「おば、様……」

「ロー……」

「私、ローズ・ヘルシオンだというのは本当なの!?」

「そう、知ってしまったか」

本当だったのね……。

おば様はどこから出したのか薔薇の髪飾りを見せた。

「代々ヘルシオン家に受け継がれている髪飾りだよ、受け取りなさい」

「可愛い……」

おば様は優しく、優しく頭を撫でた。

「その髪飾りがきっとお前を守ってくれるだろう
……さぁ行くのだ。」

「はい……」

私は未練や、恐怖、全てを振り切るように駆け出した。

目指すはシャルディの消えたあの泉……。



「スイ……」

「ローズ・ヘルシオン」

何故、名前を……?

刹那、泉が大きく波打ち、私を包み込んだ。


んんっ……あ、れ?
私、生きてる……。


小さな、茶髪の女の子が何かを抱え、走ってきた。
嬉しそうに。
サ……

『かわいいでしょっ?あたしの妹!ねー?』

アレは、スイ?
幼い頃の…………。

『スイ――ど――――たの?』

え?何て…………。



ハッ!
私は目を覚ました。

この泉の水を通じて感じ取った記憶……

貴方の名は……。


「スイ……セン」

パアアと私を包み込む水は光、そして破裂した。

地面に足をつける。

貴方は……

「水仙…………、敵だったのね」

何故、もっと早く気付かなかったのかしら……
きっとシャルディの居場所も知ってるわ。

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