Magic Rose-紅い薔薇の少女-



「ありが、とう……皆本っ当にありがとう!!」

希望の光が、見えた気がした。

お願いします。
先祖代々の時間の番人さん方、それからヘルシオンの方々……
どうか私に力を貸してください。

「アンナ・ヘルシオン、貴女の友人ルーシーの事、救ってあげられたの。
本の少しだけれどね……」

ポウッと髪飾りがソレに応えるようにして光った気がした。

急いで髪飾りを外す。

また光った。

そしてポウッと光続け、髪飾りは姿を変えた。

「これは……!」




「アンナの贈り物か」

「お義姉様……あれは?」

「ヘルシオンに代々伝わる剣……しかしヘルシオンの中でも特別な人でないとアレを見つけることは不可能だ。」




アン、ナ?アンナなの?

「剣、だと?
そんなもので魔法と闘うのか?滑稽だな」

「うるさい!」

ヘルシオン家に代々伝わる髪飾りから出来たものなんだからきっとそれなりの価値はあるはず……。



飛んでくる魔法を剣でガードする。

「避けてばかりでは面白くないぞ!」

そういえば私、フィレンツェに全然攻撃してない……。
反撃を、ダメージを与えなくちゃいけないのに
私にはそれが出来ない……。

フィレンツェを傷つけるなんて出来ないわ……!

でもそれならばどうしたら?

カルタス家はヘルシオン家の敵。
倒さなくてはいけない存在。

私の不安に応えるかのようにポウッと剣が光った。

「え……?」

身体が、手が勝手に動き、剣はフィレンツェの方に向いた。
そしてその先端から光が出、フィレンツェの心臓を貫いた。

「やっ、なん、で……」

心臓を貫かれたフィレンツェは心臓ではなく頭を押さえた。

「うっ、あ、あああ!!」

何が起きているの?

「くっ、あ……!」

私の、頭の中に何かが流れ込んできた。

「うっ、何よこれ!」

吐き気がした。

「まさか、これって……」

フィレンツェの、記憶……?



悲しい、そんな感情で溢れた記憶。

自然と私の目から涙がこぼれ落ちた。

「はぁ、はぁ……くそっこれは……」

優しいフィレンツェ、暖かい想い。
なのにとても悲しくて……辛くて……憎いの。

「時間、操作……」

時間操作の魔法……。

「俺の、記憶を巻き戻し、更正させようとでも言うのか……?」

「え……?」

「俺は汚れた人間だ!!だからなんだ!?
綺麗な綺麗なヘルシオン?」

「違うっ」

「何が違うって言うんだ!
お前だってあれほど俺達を敵と言っていたじゃないのか!!」


違うの、違う。

ヘルシオンは綺麗なんかじゃないの。

「ずるいのよ、ヘルシオンは……」

きっと正義という名の偽善で……
いいとこばっかりもっていって……

そう、アンナだってそうだったじゃないの。

「計算高くて、偽善者なのよ!
カルタスの方がよっぽど綺麗だわ!!」

「可笑しな奴だな」

可笑しな奴でも構わない。

私がこのヘルシオンを、変えていかなくちゃいけないの。
悪いところも知らずにヘルシオンの名を名乗れないわ。



「だって、貴方は優しい人……」

「な!?くそっ……何を!」

平和的解決。
これもまた、きっと偽善なの。

スルスルと地面を蔦が這ってこちらに向かってくる。

「そうでしょ、“フィル”……?」

その言葉と共に私の首を締め付けた。

「油断してると、死ぬぞ?
しかし、まぁお前がその名前に気づくとはな」

小さな男の子フィル。
それはフィレンツェ、貴方のことだったのね。

「うっ……」

痛い、息が出来ない。

私は涙目になりながらもフィレンツェに訴えた。

「サ、ラ……だって、望んで……な、い」

やっとのことで絞り出したその言葉は効果が抜群だったようで
蔦が揺るんだ。

今ね!!

ブチッと蔦を切り、一直線にフィレンツェの元へ。

「な、何事だ!?」

私はフィレンツェにサラから頼まれたモノを渡した。

「こ、れは……俺が昔サラに預かっててと渡したネックレス……」

そして私はフィレンツェの耳元で囁いた。
――目を醒まして、フィル
と。

「お姉様から……そしてさようなら」

赤く染まる。
突き抜ける感覚、気持ち悪い。



――フィル!!

刹那、空にサラの声が響いた。

同時に風が巻き起こる。

私とフィレンツェが戦っていた場所を飲み込む。



「ローズ!?」

「落ち着くんだシルバー。
大丈夫だ、アレはサラなのだからな」

「エルザ様……」



――ローズ!
  ローズ!!

キョロキョロと見回す。
そしてバッとサラがお姉様が姿を現した。

嗚呼もう二度と会えないと思っていたのに。

「ローズ!!」

「お姉様!!」

私の愛しいお姉様。

「お疲れ様でした、ローズ」

「お姉様……」

お疲れ様、は私だけじゃないでしょう?

「貴女は色々なモノを救いました」

きっともうコレで、本当に終わるんだ。

「そして貴女が私の妹ということが
とても誇りに思うわ!!」

笑顔でなのに目に涙を浮かべて……

「私の大好きな人、フィルも、助けてくれた。
本当にありがとう」

「お姉様違うわ!私、お姉様がいなければここまでいかなかった!!」

「ううん、全て貴女の力よ。
あとは私に任せて?
ローズ、ありがとう」



――大好きよ、ローズ。

お姉様、お姉様、本当に本当にもう会えないのに。
今度こそ本当に。

お姉様、ズルいわ。
本当にずるい。

だって私まだ貴女にお礼言ってないじゃないの!
自分だけ言って消えてしまうなんて……そんなの……。


気づけば風が収まり、そこには私だけが立っていた。

「ローズ!!」

「お母、様……」

「よく頑張ったな……いいから休みな」

「いいえ、まだ私やらなくちゃいけないことが一つ残っているの」

時間の番人だからこそ
私だからこそ出来ることだから私がやらなくちゃいけないの。

「ああ、わかった」

スッと空に手を翳(かざ)す。

そして集中し力を集めた。
それ空に放つ。

「壊れた全てのモノよ!
ありままに、元のように……時間(とき)よ、戻れ」

空に光が放たれた。

木々も、街も、市場も元通りになってゆく。

あ、なんだか、すごく疲れた……わ。

もう、だめ……。

「ローズ!!」

最後にきいたのはお母様の呼ぶ声だった。


  ―最終章‐幸せを感じる―

「ローズ……“また”眠ってしまったか」

「エルザ様、帰りましょう」

シルバーはローズを抱え、エルザと共に家へ帰った。


家につき、ローズをベッドに寝かせる。

「…………。」

ローズの傍らには真っ黒な猫がいた。

「シャルディ」

「はい……」

「ローズが目覚めたら、お前にかけた術を解く……
もう、身を隠す必要はなくなったからな」

「ありがとうございます」

ニッコリとエルザにその少年、いや青年は笑った。



「んんっ……」

暫くしてローズが目覚めれば、シャルディが駆け寄ってきた。

「ローズ!!」

「しゃ、シャル、シャルディ!」

ローズは目に涙を貯めた。

「もうっ心配したのよ!!バカバカバカ!!」

ぎゅうっと嬉しそうにローズはシャルディを抱き締めた。


しかしそんな二人は部屋の外でエルザが丁度術を解いたことに気がつかなかった。



「会いたかったのよー
寂しかったのよー
まったくもー!」

その次の瞬間、久々に会ったシャルディの身体がパアァァと光だした。

そして忽ち黒猫シャルディは、
黒髪の少年へと姿を変えた。

見覚えのいや、よく見た。
そう見知った顔の少年だった。

だって、だって彼は……

「シャル、え、えっシル……え!?」

シルバーにそっくりだったんだもの。

「ローズ、落ち着け」

「そんなの無理に決まってるじゃない!」

だってずっと猫だと思っていた彼はシルバーで。
あの黒い男と同一人物(?)で……


「シルバーは偽名。
本名は……
シャルディ・スコアラーだ」


「シャルディ……」

私、私……もうこの気持ち、抑えられない!!

「シャルディ!!」

「ローズ?」

ああ、きっと今私の顔、すごく赤い。

「あの、あのね……」

「いいよ、ゆっくりで」

深呼吸をひとつ。

でも胸のドキドキは収まらない。
それでいい。だってこの気持ちはその程度で落ち着くようなものではないのだから。

「大好き!!」



「誰よりも、何よりも貴方が……シャルディの事が大好きなの!!」

「ローズ!」

「きゃっ!」

ガバッとシャルディは私にいきなり抱きついてきた。

前にも抱き締められたこととかあったけど
あの時はまだ気づいてなかったし……
とにかく恥ずかしいわ!

でも、嫌じゃないのよね……。

「ローズ………………」

シャルディが耳元で囁いた。
なんだかその声がとっても色っぽくて
しかもその言葉もまた嬉しくて
あっという間に私の顔は
林檎に負けないくらい真っ赤になってしまった。


「シャルディ!」

――俺もだよ

それ以上でも、それ以下でもないその言葉。
飾られた言葉たちよりもずっと
嬉しかったの……。

「それじゃあローズ、エルザ様のところへ……」

気づいたら私、彼の袖を掴んでいた。

「ローズ?」

「いや、あの、何でもないのよ?」

離れたくない。
離したくない。

「離さないで!!」

はっ、私ったらなんて恥ずかしいことを!!