Magic Rose-紅い薔薇の少女-


彼女は、無抵抗だった。

羽が切れ、ボロボロになるのをただ黙って耐えていた。

「“アゲハ”……アタシの名前、忘れんなのよ?」

極上の笑み。
見たものすべてが魅了されてしまうような、極上の。

彼女は決めたんだ。私に殺されることを。

――アタシは逃亡者

彼女の想いが、伝わる。

――ツクラレタ存在

  血だらけになってアタシは……
  そこにいた。

  『まま、ぱぱ、
  どうしておいてっちゃったの?』

  アタシのコト、きらいになった?

  『おいで』

  天涯孤独になったアタシに、
  差し出された手。

  『アゲハ、
  お前を置いて
  二人で自殺した親を恨んで……』

  『あげは?』

  『お前の名だ。“アゲハ”』


  アタシは名前と羽を貰った。



「アタシを拾ってくれたご主人様はもう居ない
だからアタシも逝って、恩返しを……

アタシを殺せ、ヘルシオン。」

彼女は両手を広げ、全てを受け入れた。


「アゲハ……」

「さぁ……」

「幸せに」

「ハッ!大丈夫だ」


――きっと許してくださる。

  アタシの飼い主(ご主人様)……。

アゲハはいなくなった。
消えてしまった。

この世界に遺体は残らないの?

それがせめてもの救いと思う私はおかしい?

……私はこの手で人を殺めた。
敵。たしかに敵。

だけど命に変わりはない。それでも、どんなに犠牲を払っても私は進まなければいけない。

早く行かなきゃ……!!

『待って!!』

頭の中で、声がする!?

『急いじゃ駄目』

身体が動かない。

まるで見えない誰かに押さえつけられているような……。

「何故……?」

『兎に角急いじゃ駄目なの!』

「私は早くサラを助けたい!!」

『そう、貴女なら出来るわローズ』


きっとサラはこの城の頂上にいる筈。

その頂上まで、不思議な程、何もなかった。




あ、兎。
なんでこんな所に……

ってあのリボンは……。

「ま、待って!!」

まるでアリス、白兎を追いかけてたどり着いた先は、扉の前。

一番最初、サラの助けを求める映像を見た時に見た扉にそっくりの。

カチャリと、簡単に扉は開いた。


「サ、ラ……」

「ロー、ズ?」

「サラ!!」

私はサラに抱きついた。
ちゃんと、此処にいるサラだ。

記憶でもない。
ちゃんとサラだ。

「ああ、ローズ……」

「その声、さっき一階で私を止めた声……貴女だったの?」

「バレた?そう、私よ」

10年振りの再開。
もう、会えないかと思っていた、私の姉。

「それは?」

私の右目に残る血の涙の後にサラは目を止める。

そして何も言わずにそれを魔法で消した。

「……わぁ」

「折角の綺麗な顔が台無しだものね」

コツッコツッと言う音が聞こえる。
サラの顔が強張る。

足音が、止まる……。



「初めまして、ローズさん」

可愛い、目がくりっくりだ。
フワフワの髪の毛を二つに結んだ可愛い女の子。

「何が目的?」

サラが私の前に守るように躍り出た。

「リリス・ハウエル!」

ハウエル?

まさかこの子、シルバーの
『遂には妹まで……』
……妹!?

「兄さん、元気?」

ゾクリと悪寒がした。
何この子……。

「知らないんですか?」

コロッと華やかな雰囲気になる。

「必要なし、です」

必要なし?

リリスは右手から黒い、光の玉を出した。
それが私に向かってとんでくる。

「ローズ!」

サラが私を突き飛ばした。

「痛……サラ!?」

羽は真っ黒に染まり、魂のようなものが出ていた。

リリスはそれを取ると身体に取り込んだ。

「サラ!サラ!!」

返事がない。

リリスは髪飾りを置き、兎を呼んだ。

「行くよ、消されるわけには行かないんですから」


  ─第六章‐再会の時─

サラは深い眠りについたかのように、目を覚まさない。

「サラ、サラ!目を開けて……!
嫌よ、そんなの嘘よ!!」

サラはそれでも目を開けなかった。

そしてサラは光の粒となり、消滅した。

「サ、ラ……」

消えてしまった……。
本当に、居なくなってしまった。


コツっと静かな部屋に響いた。

「お久しぶりですわね」

キッとエクセディを睨む。

「エクセディ……ネックレス!
返して!!」

彼女は私のネックレスをつけていた。
そんなの許せない!!

「嫌ですわ」

しかし、ネックレスはそれに反し、フワッと浮き、私に向かってこようとしていた。

「そうよ、こっちよ!!」

「黙んなさい!!ですわ!」

ギュッとネックレスを握り、阻止をする。

いや、それにしても、“黙んなさいですわ”はないよ。

言葉的におかしいし。



――魔力、解き放たれたり

ネックレスはエクセディの手の中で光出し、エクセディを呑み込んだ。

――速やかに所有者に渡すのだ。

「嫌ですわ!」

――早く!!
  それならば力付くでも返すまでだ!


呑まれる!?

そう思った瞬間、声が聞こえた。

――死の制裁を

目を瞑り、もう一度開く。
その時の私の目に光は宿っていなかった。

「殺すのか?」

聞きなれない男の声。

顔を見れば、ニコリと微笑む男がいた。

「貴方は?」

「フィレンツェ・カルタス。
エクセディの兄さ」

「……敵」

私はバッと彼に突進した。

それを回避しようと手を上げたフィレンツェだが、妹の異変に止めた。

「エクセディ……?」

エクセディはそんなの聞こえないかのように自分の手のひらを見つめていた。

嫌な予感がした。



――ローズ、聞こえるかい

この声……。

貴女は

――なに?

まさか、


ローリエ?


――正解。
  私はいつもあのネックレスの中にいる。

ハッと意識が現実へと戻る。

目の前には少し焦げた右手を見せるエクセディが。

「何ですの?これ……」

シュウウッと焼けるような音をたてながら彼女の腕へ指先へと焦げは広がり始めた。

「やぁ!!」

ネックレスの当たっている場所も徐々に……。

ポロリと涙を流し、泣き叫んだ。

「嫌アアァァァァ!!」

エクセディが、焦げて行く……。

フィレンツェは止めようと、駆けよった。

「エクセディ!ネックレスを外すんだ!」

フィレンツェがネックレスに手をかける。
しかし、彼は即座に手を離した。

「なんだこの熱さ……」

エクセディへの呪いは止まらない。



「お兄様、ワタクシはこれまでのようですわ」

エクセディはギュッとフィレンツェの手を握る。

そして焦げは遂に彼女の顔まで達した。

「……に…………さ、ま」

そして、彼女は真っ黒になり、死んでしまった。

呆気ない。
こんなにも、呆気ない。

フィレンツェは私を睨んだ。

そして直ぐに何処かへ行ってしまった。

私には、何が起こったのか……。

エクセディの亡骸が消え、ネックレスだけ残る。

熱くない……。

『私はいつもあのネックレスの中にいる』

まさか、ローリエ、貴女が?


ネックレスを取り、髪飾りを拾った。


あ、目眩が……。

視界が歪み、立っていられなくなり、座り込んだ。

――何をしたか、知りたいの?




私は、気づけば見知らぬ空間にいた。
多分、ローリエが創造した世界。

「ローリエ!!」

「そうよ」

姿が、違う。
髪がすごく長くて、私より大人っぽい顔。
でも目の色と、顔のパーツは私と瓜二つ。


「さぁ、始めましょう」

「何、を?」

「大丈夫、ローズに元の力が戻るだけ」

元の力って?

「ローズ、貴女はねとても凄い魔力の持ち主なの。
でもコントロールするのは難しいし、魔力を消さなきゃ人間として平和に暮らすのはまず無理。
だから貴女の母親、エルザがこのネックレスに魔力を移したの。
そして私はその番人みたいなもの」


おば様、が……?

「さぁ、やりましょう……

ローズ・ヘルシオン
我の主と認める。誓いなさい」

ローリエは私に左手を差し出した。
私はそれにそっと口付けをする。