「そんな不安な顔をするな」
「けど…私は魔界へ来て初めてラファエル様に会って。それ以前にラファエル様と過ごした記憶はないから…」
私の記憶の中にラファエル様はいない。
そう言った直後、アメジストの瞳が細められ、辛そうに眉を寄せた。
「そうだな…だが俺には君と過ごした日々が今も鮮明に残っている」
「そんなこと言われても、私は覚えていないもの…」
声を絞り出して訴えた言葉にラファエルは何も言わず口を噤んだ。
ラファエル様の言葉に応えてあげられないのは私とラファエル様では“記憶”と言う大きな壁があるから。
私の失われた記憶がラファエル様と“イヴ”に関係し、私の失われた記憶についてラファエル様は何か知っているのは確か。
だけど、ラファエル様は私の記憶についての話になるといつも辛そうな表情をして何も答えなくなる。
ほら…今だってそう。
記憶がなくて辛い思いをしているのは私の方なのに、ラファエル様の方が辛そうな顔をする。
だからいつも問い詰められないんじゃない…
「ごめんなさい」
ラファエル様を苦しませたくて言ったんじゃない。
そう思って謝罪を口にした時―――
「不安なら君の記憶を明かそう」
「え?」
ラファエルの言葉に耳を疑った。