ただ触れるだけの口づけ。

抱きしめる力の強さからは考えられないほど優しい口づけだった。





トクン…トクン…と静かに心臓が跳ねる。


一瞬がとても長く感じるけど、それはとても幸せな時間で。

ずっと続けばいいのに…と淡い想いを抱いた。



しかし、そんな想いとは裏腹にラファエルは離れていく。



熱を孕んだアメジストの瞳と視線がぶつかれば、急に恥ずかしくなる。

さっきまで穏やかだった心音は途端に早鐘を打ち、頬はだんだんと熱を持ってきた。




私…何て事を……

今になって恥ずかしくなる。

そんな様子を見ていたラファエルがフッと柔らかな笑みを浮かべた。

そして、私の手を自分の胸に持って行き、ラファエルは静かに話し始める。





「君が君の意志で魔界に残ることを選んでくれて嬉しかった」



心からの言葉…――――

それは握られた手の強さと、少し早い鼓動が示していた。

私も胸がトクンと高鳴った。





けれど――――


「君が再び俺の前に現れ、記憶を無くしてもまた俺を選んでくれたことが嬉しかった」

「また…?」


どうしても“イヴ”の影を拭えない不安が声となって出てくる。

サッと眉を寄せた私をラファエルは見逃さなかった。