しかし、ラファエルは腰に回った私の手をそっと覆い、優しく私に言う。
「イヴ…もう一度。大丈夫だ、最後まで聞く」
前を向いたまま告げられた温かな言葉に目頭が熱くなる。
こんな自分勝手な想いを言ってもいいのだろうか…と思っていた迷いが一瞬にして消えた。
「わたし…天界へは帰りたくないです。魔界に残りたい…」
「ッ……!」
予想もしていない言葉だったのか、ラファエルは息を飲み固まる。
言ってしまった……
少し後悔が押し寄せるも、もう止まらない。
「ルーカスがいるからじゃない、イリスやリリスがいるからじゃない…ラファエル様がいるから魔界にいたいんです」
声を振り絞って伝えた言葉にラファエルの体が僅かに震える。
私の手を覆う大きな手がギュッと強くなり…
「イヴ……」
掠れた声で私の名を呼ぶ。
否、ラファエル様の頭の中に在るのは“彼女”
「ッ…その名で呼ばないで」
胸が押しつぶされそうなほどの切なさに襲われながらポツリと口にした。