「南朋、一馬くんも帰って」

飛鳥はどんどん言葉を口に出してゆく。
私は胸が痛くて、口はふさがったまま。

頭にあることが上手く言えない。

「なんでアンタに指図をうけないといけないのよ、私年上なんだけどっ」

「それが?年上のくせして私みたいな『年下』にコテンパンに言われてるあなたは、なんなの?」

「…っ!」

今の台詞が相当南朋の勘にさわったらしい。
物凄くイラついているのが一瞬で分かる、眉間にしわがあった。

「早く帰って、これ以上姉ちゃんに酷い事しないでよ」

「飛鳥…」


一瞬、一瞬だけ。

一馬と私の目があった。
急で私はとっさに視線を避けてしまった。

…なんだか、凄く虚しい。

「じゃ、俺は帰る」

「ちょ、一馬っ!」

「勝手にお前だけでやってろよ、俺はお前の彼氏でも言いなりでもねぇっ」

そういうと一馬は早歩きで家路をたどっていった。

「ぁ、待ってよ!」

それを南朋は追いかける。
視線を合わして、また嘲笑って。

今日は楽しく、穏やかで、幸せなひとときを過ごすと思っていた。

だけど、まさか。
南朋が来て、飛鳥がキレて、私は泣きそうになって。

もう…なにがなんだか分からないよ…

―――――――――――

…バタン

ドアが閉まった後も、しばらく私達はそこで立ちすくんでいた。
私は手の震えが止まらない。

「姉ちゃん…」

それに気付いた飛鳥は私の手を優しく握ってくれた。
涙がひとつ、またひとつ。

頬に流れる一筋の涙。

「…なんでぇっ…」

「…」

飛鳥はひたすら泣いている私の背中をさする。

「なんで…今日は一馬と、楽しもうと思った…の、に…」

私は泣いた、飛鳥も泣いた。