そして…


ただ射竦められた獲物のように、一歩も動けない私に、


耳元に顔を寄せたままのコーヘーの息がうなじにかかる。


それさえも記憶を引き出す鍵になりそうで、とても怖かった。


もしも、思い出してしまったら


そのパンドラの箱を開けてしまったら、


その時、私達はどうなってしまうのだろう…


焦る気持ちを抑えようと、私は震える手を握り締めた。



「コーヘー…冗談は止めて…。」



途切れ途切れの精一杯の虚勢だけが、今の私の唯一の盾だ。



『…冗談じゃねぇよ。』



そんな精一杯の虚勢も、コーヘーの前では脆くも崩れ去ってしまう。



そして…


私の耳元から顔をずらし、至近距離で私を見つめるコーヘーの、その瞳の奥が怪しく光った気がした。