じりじりと壁際に追い詰められていた私は、
気付けばいつの間にかコーヘーの腕に囲われて、震える鼓動に身動きが取れなくなっていた。
『カナ、思い出せよ。』
震える私の耳元でコーヘーがゆっくりと甘く囁く。
『昨日の夜何があったのか。』
その言葉はまるで思考を溶かす毒のようで、
「嫌だ……」
私の弱々しい抵抗など、容易く溶かしてしまう。
『じゃあ思い出させてやるよ、カナ。』
甘い毒を含んだコーヘーの囁きは、ますます私を追い詰める。
ああ…
コーヘーの毒が、
私にまで廻る。
低く甘く私の名前を囁くその声は、どこかで聞き覚えがあった。
コーヘーのそんな声聞いた事もないハズなのに、
生まれてから一度も聞いた事がないハズなのに…
思い出せない記憶の中に、『カナ…』と甘く囁く声だけは、
どうしてだか聞き覚えがあった。
熱に浮されて、私が私でなくなりそうな、熱くて溶けてしまいそうな記憶の中に…