そうか、親父もこんなキモチだったんだな…

通りを行き交うわずかな車の音
時々聞こえる歩く人のため息
店の前にある木々がさえずる葉の音
俺はこの街で小さな美容室を営んでいる。
店の名前は「ビューティー・アライ」

両親が営んでいたこの小さな美容室
幼い頃の俺にとっては最高の遊び場だった

赤く染まったり
毛糸の様にねじれていったり
そんな風に変化していく様々な人達と
ガキだった頃の俺は毎日色んな話をしては
遊んでもらっていた。

意識はしていなかったものの
気付けば俺も親父と同じく
その小さなはさみを握る仕事を
選ぶ道を進んでいた。

若かった俺はこの小さな田舎街で
親父が営むこの店の2代目にはなりたくなかった。

もっとおっきな街でおっきな美容室を経営して
日本一のカリスマ美容師になるんだ!って
専門学校も都心の学校を選び、街の美容室で働いていた。

正直自分で言うのも恥ずかしいが
本気で日本一を目指していた俺は
コンクールでも何度か賞を獲り
少しずつだが雑誌でも取り上げられ
俗にいうカリスマ美容師として
だんだん認知され始めていった。

…そんな矢先だった。