―――それから、約一年後。






「もしもし?」





『柚?今どこにいるの?もうパフォーマンス、始まっちゃってるよ?』




携帯の向こうで、優輝はそう言った。





「ごめん、優輝。」





あたしが謝ると、もー!と不満げに声を漏らす。






高校三年生になったあたしは、最後の学校祭を楽しんでいた。



そして、かねてからずっと計画していたことを、今…。





「あのね優輝、見てて。あたし今から、大切な人との約束を果たすの」




『へっ?』




―――続いてエントリーNo.6、3年A組の此花 柚姫さん!





『えっえええ!?柚!!?』




「またね!」





一方的に電話を切り、あたしはステージに立つ。




全校生徒のほとんどが集まるだけあって、圧巻だった。




けれど。





「…この歌を今はいない、大切な親友へ。」






マイクを握り、あたしは歌った。




一年間、必死にリハビリをした。



また歌えるように、約束を守れるように…。




その約束を、今。










アキちゃん、あたし歌うから。



この声の続く限り、いつまでも。




アキちゃんのいる場所まで、届くくらいに。




聞こえる?



ねぇ、アキちゃん…―――。










『あ、ありがとうございましたーっ!』



歌い終わった数秒後、司会の人が気付いたように、そう締めくくる。




あたしは一度深く頭を下げ、大歓声を背にステージを降りた。






降りてすぐ、優輝たちが駆け寄ってきた。




「柚っ!めっちゃ、凄かった!」



「あたしなんて、感動して涙が出ちゃった」



「音域広すぎだし、声めっちゃキレイだった!!」






優輝はあたしのあの事情を知っていて、赤い目で黙って抱き締めてくれた。




「良かったね、柚…」




「うん、ありがと…」






あたしのもう1人の親友は、言ってくれた。





『あたし、柚の歌が大好き』



と。




かつての親友と同じことを。