まさか、と思いながらそっと顔をあげる。
嘘、どうして…。
目の前にいたのは、驚いた顔をして立ち尽くす暁くんだった。
「柚!」
どうして、暁くんが…。
それまでさしていた傘を投げ捨て、あたしの側へ駆け寄ってくれる暁くん。
「柚、どうしてこんなところに?ああ、ずぶ濡れじゃないか。」
あたしの冷えきった両頬を温かい手で包み込んでくれたあと、手早く鍵を回して扉を開けた。
「さあ、早く中へ入って。」
暁くんに促され、マンションの中へ入る。
18階にある暁くんの部屋に来るのは、二回目だった。
「上がって。今タオル持ってくるから」
そう言って、奥の部屋に消えた暁くん。
上がってと言われたものの、濡れたままだから上がるのは申し訳ない。
だからと玄関のところで待っていると、ふわりと頭に被せられた柔らかいタオル。
「こんなに濡れて…。今、お風呂沸かしてるからね」
優しい手つきで髪を拭いてくれて、その優しさにどうしようもなく涙が溢れてきた。
ああ、暁くんだ…。
会いたかった、暁くんだ…。
今更ながら、会えた嬉しさに気が付いて涙が溢れないように唇を噛んだ。
「柚?どうしたの?」
何でもない、と首を振ってタオルでそっと涙を拭いた。
「…また君は、俺の知らないところで傷付いているんだね。」
え?
暁くんのそんな呟きが聞こえたと思った瞬間。
…ふわり。
あたしは、暁くんの腕の中にいた。