◎人の言葉を話す傘の話





この世界では珍しい言葉を話す傘がありました。その傘は色々な人と歩いてきましたが、言葉を話した途端怖がったり、売り付けられたりしました。それでも傘は人間が大好きでした。そんな中、傘はある一人の少女の手に渡りました。このお話はそこから始まります。



少女は親を早くに亡くし、親戚に引き取られていました。私はそんな少女の誕生日プレゼントとして贈られました。彼女は至って普通な女の子。人より少し繊細で年の割には聡い女の子。そんな彼女は物欲もなく、セールで売られていた私を親戚は買っていきました。


彼女は優しい表情で私を見てくれた。まるで言葉を話す事を見透かされているような感覚に陥る。晴れの日以外は一緒に出掛けた。彼女とのお出かけは楽しかった。1年中雨でも良かった。それくらい彼女一緒に居たかった。


そんなある日の事だった、彼女が苦しそうに泣きそうな顔をしながら、お出かけしたのは。迷惑をかけないように涙を見せない彼女にこんな日は珍しかった。声をかけたかった、でも怖かった。大好きな彼女に嫌われるのだけは嫌だった。彼女の為に何か出来る事を探したけれど、どんなに探しても見つからなかった。


始終、彼女は顔をびしょびしょに濡れた地面へと顔を落とし、悲しげな表情を見せていた。そんな中、彼女はその口を開いた。


『 大人になんか、
為りたくない 』


そこには大人になる拒絶と大人への軽蔑が含まれていた。彼女らしからぬ言葉に初めは驚いたのだが、彼女なりの気持ちが含まれているのに気が付いた私は何とも言えない気持ちに苛まれた。


彼女はずっと子供で居たかった。自由で何の柵もなく生きていける子供のままで。道に咲く花を「綺麗」と思える子供のままで。虹を見た感動を素直に喜べる子供のままで。「都会の空」のような社会を構成する一部には為りたくなかった。人は生まれた時から自由だが、だんだん成長する度に先達のように一色に染まっていく。


それが彼女は嫌だった。勿論、私も嫌だった。私を感じる彼女がいなくなってしまうなんて私には堪えられなかった。それ以降、彼女は口を開かなかった。ただ、私を持つ手の力が強くなったのと、彼女の目から流れた涙が地面に流れたのは分かった。