◎スーパーの帰り道
ほのぼの.男視点
「ねぇ、」
「なに?」
「安売りだからってさ卵買い過ぎじゃない?」
俺の持つスーパーの袋の中身は全て、卵だ。ちなみにあいつが持つスーパーの袋の中には、今晩の晩御飯であるカレーの具材が詰まっている。
「食べられなかったらどうするんだ?勿体ないじゃないか」
「そしたら、毎日卵料理だよ」
「そ、それは勘弁して」
「嘘」
こいつはどうしたいのだろうか。全く想像がつかない。だが、全く想像がつかないのがこいつだ。
この間だって、
『ねぇ、品種改良って家でも出来る?』
と聞いてきた。何がしたいのか全く分からなかったが、あいつはどうやら花を作りたいらしい。何処にもない、この世に一つだけのものを。
最近気が付いたのだが、あいつは『この世に一つ』というものに変なこだわりがある。
「ねぇ、今の話聞いてた?」
「ん?あ、ごめん。聞いてなかった」
物思いに耽ってる間に、話しかけられている事に気が付かなかった。
「で、どうした?」
「卵とカレーがあれば、この世に一つのものが作れるかもしれないよって」
「あ、ああ。そうだな…」
ほらまた出た。この世に一つだけのもの。
俺はこれを機に聞いてみようと思う。
「ずっと気になってたんだけど、何でそんなにこだわるんだよ」
「何が?」
「この世に一つ、に」
そう言われた時のあいつの顔は何とも印象的だった。それはまるで「何でそんな事を聞くの?」と言わんばかりの顔。俺にそれは、分からんと顔を見た。
あいつは迷っていた。どんな思いがあいつの中で交錯してるのかは、勿論知る由もない。
そんな姿を見ていると、頬が赤くなっている事に気が付いた。
「だ……だって、」
この世に一つだけ、
私達の家だけの味があったら
幸せだな、って
俺の胸にはその幸せが既にいっぱい広がっていて、それでも足りなくて、俺はぎゅっと、愛しい妻を抱きしめた。
◎スーパーの帰り道
(もう離して)(嫌だ)(卵が割れちゃう)