「ねぇ翡翠、この字読める??」

本の部屋。
僕と琥珀は2人で本を読んでいた。

「どれ??」
琥珀は本を傾け、1つの熟語を指さす。

「……分かんない。辞書ひけば??」
「それがねー、辞書にないのー。」
近くの棚から辞書を取出し、
琥珀はぱらぱらとめくっていく。

「多分このへんでしょ??」

と琥珀が指さす所は、
黒々と塗り潰されていた。

まるで、戦後の教科書みたいに。

「これのせいで見えないの。
ほら、他にもいっぱい塗られてるし。」

確かに所々、ピアノの鍵盤のように
黒いラインが目につく。

「なんでだろうな。」

「うーん………」

考え込んでいると、
廊下から足音が聞こえてきた。

それは本の部屋の前で止まり、
それと同時に扉が開く。

「翡翠くん、琥珀ちゃん、
おやつの時間だよー!!」

足音の主は瑠璃だった。

「あ、ありがとー瑠璃っ!!
ほら翡翠、いこっ!!」

琥珀は僕の手を取り駆け出す。
墨塗りの辞書は開かれたままだった。