あの日

あの時

彼女は笑ったんだ。

「君に私の未来をあげる」

そう言いながら……。





* 未来 *





気がつくと僕はここにいた。

ただ大きな木だけが根差すここに。


ここから見えるのは鬱蒼と生い茂る木々と眼下に広がる街並み。

きっとここは小高い丘の上なのだろう。


ふと目についたのは木の下に置かれた木製のベンチ。

彼女は長い髪を風に靡かせてそこに座っていた。

遠くを見つめながら。


「……そこ、眩しくない?君もおいでよ」

彼女は僕に微笑みかけた。

僕は彼女の隣に腰を下ろした。


「貴女はどうしてこんなところにいるんですか?」

彼女は少し困ったように首を傾げた。

「じゃあ君はどうしてここにいるの?」

「え?」

僕は答えられなかった。

答えを知らないから。

「ふふ。冗談よ」

彼女はまた遠くを見つめた。

「私はね、大切な人を待ってるの」

「大切な…人?」

「そう。私が、心から愛してる人」

そう言った彼女の横顔は幸せそうだった。

「私ね、結婚するの。彼が戻ってきたら」

「おめでとうございます」

彼女はふふと笑ってありがとうと言った。