ひんやりした教室。
自分の心臓の音がうるさすぎる。
緑川先生は、私から離れた。
黒板の前に立つ。
「大越は、ええ子やな。将来、めっちゃええ女になるわ」
「そんなことないです・・・・・・」
涙が止まった。
愛の力。
困らせたくない。
悩んで、苦しんで、答えを出した。
緑川先生は悪くない。
「もっと若かったらなって何度も思った。黒岩先生くらい若かったら・・・・・・お前を選んだかな、俺・・・・・・」
「選んで・・・・・・欲しかったけど・・・・・・緑川先生が決めたなら仕方ないです」
また少しだけ私に近付く緑川先生。
でも、また戻る。
そう。
こういうこと。
教師は、黒板の前で。
生徒は、自分の席。
この距離は変わらん。
黒岩先生と萌美だって、あんなに苦しんで、泣いたりしてる。
簡単なことじゃないんやな。
「選びたかった・・・・・・お前を。でも、俺には勇気がなかった。自信もなかった・・・・・・」
泣きそうな声でそう言った後、緑川先生は私の前まで歩いてきた。
「俺な、お見合いした。親が勧める人で、俺より少し年下で同じバツイチの人。その人と、ちゃんとお付き合いをしようと思ってる」
「・・・・・・お見合い?」
ショック過ぎて・・・・・・
目の前が真っ暗になった。
「その人のこと好きなんですか?」
「まだ好きではない。だけど、その人となら、未来が想像できる。結婚して一緒に暮らしていく未来が・・・・・・だから、自分の親の為にもその人と結婚を前提にお付き合いしようと思う」
そっか・・・・・・
ご両親もその方が安心やもんな。
緑川先生が私を選んだら、たくさんの人が心配する。
私はまだ高校生やもん。
「これが正しいんかどうか俺にもわからん。でも、俺はこんな生き方しかできひんねん」
誰も緑川先生を責めることはできひん。
私だって、先生の立場やったら、同じ選択をしたかもしれん。