朝起きると、お母さんはニヤニヤしながら私にご飯をよそってくれた。
いつもは自分でやりなさいって言うのに。
「黒岩先生って、かっこええなぁ。お母さんが思ってたよりも近くで見るとかっこええなぁ」
「うるさい」
「そりゃ、あんたが好きになるのもわかるわ~」
「うるさい」
「そんなこと言ってええんかな~。2人の交際、認めたろうかなってお父さんと話してたのに~」
「え?」
反対やと言いながらも、応援してくれてたお母さん。
お父さんにも話してくれたんや。
でも・・・・・・
付き合ってないし。
「でも、片思いになってん」
「何、それ。捨てられたん?」
お母さんの顔が、急に怒りに満ち溢れて・・・・・・
「ちゃうちゃう!!やっぱ、コーチやしそんなんあかんやろってことで、卒業までは何もないねん。お互いの気持ちを封印しようってことで」
と、適当に言ってみた。
卒業したら、っていう約束をしているわけじゃないのに。
「まともな先生やな。あんたが選んだ人やから、お母さんもお父さんもいざとなったらちゃんと会って話すからな」
「ありがとう」
「今は、怪我を治すことに専念しい。せっかくサッカー楽しくなってきたのに」
私は、足の包帯を巻きなおしながら、お母さんを見た。
あの頃。
中学3年の頃。
私とお母さんは最悪な関係やった。
うるさくて。
受験生の気持ちを理解してくれへんし。
もうキライやって思った。
あの時に、救ってくれたのは黒岩やった。
お母さんの大切さを教えてくれたのは、黒岩やった。
黒岩がおったから、今のこの関係があるんや。
「お母さん、いろいろごめんやで。ありがとう」
照れくさいけどそんなことを言って、家を出た。