「これ、緑川先生が渡してって」
私は、ノートに目を落としたまま渡した。
目を見たかった。
でも、黒岩が目を見てくれんかったらショックやもん。
「おう、サンキュ」
手が
当たる。
懐かしいあったかい手。
目が
合った。
「何照れとんねん。あほ」
ノートで頭を叩いてくれた。
こういうの久しぶり。
「あ、別に黒岩でええぞ。無理して黒岩コーチとか呼ばんでもええし。気持ち悪いわ」
「え~、でも」
「ふたりで話す時は、今まで通りでええんちゃう?」
ノートを開いた黒岩は、私と並んで歩き始めた。
ノート渡したらすぐにみんなのところに戻るつもりやったのに、自然に話してくれるからこのまま歩き続けてもええんかな?
「試合、緊張してんか?」
少し肩が触れたから、離れた。
「うん。ちょっとだけ」
「お前らしくないやん。ドーンといかんかい」
背中を叩く。
こうして触れられると感じる。
めっちゃ好きやなって。
この人がたまらんくらい大好きやって。