「黒岩先生とあれから話したんや。黒岩先生は、小阪のためにはこうするしかなかったって言ってた。好きになった時からずっと悩んでたらしい。だから、コーチ引き受けたせいだけじゃないねんて」



緑川先生は、机に腰掛けた。


私は椅子に座って、先生を見上げた。



「黒岩先生は、小阪のためには良かったけど俺にとってはこれで良かったんかわからんと言ってた。でも、まだ高校生の小阪をしばりつけることに罪悪感もある、と。何となく意味わかるか?」



「・・・・・・はい。何となく」




私はまだ恋愛経験も少なくて、彼氏ってのもいない。


だけど、わかる。




黒岩先生は本気で萌美のことが大事やから、別れることにしたってこと・・・・・・か。




「でも、それが萌美を苦しめることになっても黒岩先生は良いのかな」



「うん。そこが問題やねん。黒岩先生は、小阪の気持ちをどこまで理解してるか・・・・・・やな。高校生は高校生と恋愛するべきやってそう思うんやって。だけど、自分が好きでおる限り、小阪を束縛するし、サッカー部コーチやのに集中できんくなったりするし・・・・・・と悩んでた」




大人も悩むんや。


不思議や。



うちらと変わらんやん。





「お前もいつか好きな男ができたら悩んだりすると思う。あ、もうおるか?」



「え?」



いきなり私の話になって、とんでもなく動揺してしまった。



「い、い、いません!!」



「お、そうか」




絶対顔真っ赤になってるわぁ。





「緑川先生もめっちゃ好きになったことあります?」



昔の彼女、めっちゃ好きやったはずやもん。



気になる。




「そりゃ、35にもなればそういう過去もあるわな」



「35歳やったんですか?びっくり」



「知らんかったん?オヤジやで、俺は」




ううん。


全然、見えない。


若く見える。




だって、こんなに私が好きって思えるんやから。