『ちゃんと考えてみなよ』

「何を?」


『原因のアンタがあたしを庇えば、余計に嫉妬されるでしょ。そしたらまた呼び出しが増える』


ふと、一夜を思い出した。


一夜はそのことをちゃんと考えてた。

本当にピンチの時にだけ、助けてくれた。


助けてくれた後も、あたしを心配してた。

無愛想で、ぶっきらぼうで、めちゃくちゃなところあるけど、周りへの思いやりは人一倍あるんだと思う。



「そうかな?俺さっき、次は本気で怒るって言ったし大丈夫じゃない?」


そういう問題じゃない…。


それでも、麻生の見えないところであたしに嫌がらせしようって考えてる女子は絶対いる。



『一夜は、そういうところちゃんと考えてくれてた』


麻生の前で一夜の名前を出すと、明らかに反応する。

“口だけは誰よりも上手い”って言ってた時も、一夜の名前を出してた。


「……」


案の定、一夜の名前を出すと下を向いて黙り込んだ麻生。


『アンタの方が口上手いかもしれないけど、アンタより一夜の方がちゃんと考えてる』


…麻生がピクっと反応した。


『一夜にはちゃんと自分の心がある。アンタにはそれ、あるの?』


麻生は少しだけ顔をあげた。



――ドンッ

『いっ…!』


麻生は急にあたしの肩を強く押した。

後ろの硬い壁に背中をぶつけたあたし。


『ちょっと、何すんの?痛いんだけど』


いきなり手を出した麻生に、あたしは怒り気味で言った。


麻生を睨んだ。

でも目は合わなかった。


何コイツ、付き合ってらんない。

もう1限始まる頃だし、帰ろ。



そう思った、瞬間だった。