「えーっと…」


咄嗟の言い訳が思いつかずに、俺は額に手をやった。


だが緑川の声は穏やかだった。


『やっぱりそうでしたか』


妙に納得がいったように、それでいてどこかすっきりしたような清々しさを滲ませている。


ここまで来て妙な否定をするのもアホらしい。


「……そうです。そう言うことです」俺は素直に白状した。


電話の向こうで緑川が笑い声をあげる。


『やっぱり。だっておかしいと思いましたもん。部長が男が好きって』


「はは…」乾いた笑みがもれる。


ですよね。


『あたしの完敗ですね。やっぱり柏木補佐には適わなかったなぁ』


「好き好きだよ。君がいいって言う男もいるって」


『そうですかね?』


「ああ。現に、る…柏木さんがダメって言う男もいるしね」


瀬川がそのいい例だ。


『…ありがとうございます』


緑川は軽やかに言った。その声に悲しみや寂しさや変な企みを感じなかった。


さっぱりと爽やかだ。


何かを吹っ切った声だった。


『デート中ですよね。すみませんでした。一言お詫びがしたかっただけなので。それじゃ』


「ああ。また月曜日に」





『部長』






電話を切る間際、緑川の声が聞こえた。



妙に大きな声だった。