「あ、ごめんなさい。あたしったら啓のことを放ったらかしに。退屈でした?」
「いやいや。ゆっくりどーぞ」
恥ずかしそうに笑って、俺は作品を促した。どうやら叱られはしなさそうだ。
「あたし美術館とか好きなんです。休日とかたまにふらっと行くんですよ」
「へぇ一人で?」さりげなく探りを入れる。俺の前に、一緒に美術館に行く男が居たのか気になった。
「ええ。一人で。あたし美術館は一人で回りたいんです」
ぐさりと一言。
それでも、歩きながら瑠華は楽しそうだった。
俺の勝手で無理やり連れてきてしまったけど、彼女の好きな美術館は一人じゃなく、隣に俺が居るけど、楽しんでもらえているようだ。
なんてうきうきしていると…
瑠華はもう出入り口の方へ。俺は一人置いていかれた。
慌てて彼女の後を追う。
ホント、マイペース…
昼食をタリアセンの中のレストランで済ませ、その後は一旦ホテルに車を置き、今度は歩いて旧軽銀座に向かった。
さすが軽井沢の中心部。人が多い。
旧軽銀座の通りは、原宿の竹下通りみたいな感じになっている。
道の両側に土産物屋をはじめとする店舗がずらりと並んでいた。
その中でもやはり地元名産のワインやジャムの店が多い。
その一店舗の中で瑠華が赤ワインを手にとって、真剣な眼差しでじっと見つめている。
「買うの?」と聞いてみると、
「麻野さんに。彼はワインって好きですか?」と返事が返ってきた。
「裕二?さぁワインは…。綾子なら好きなはずだったから、二人で飲むんじゃない?」
俺の言葉に瑠華がきょとんとした。
「…え?何で木下リーダー?」
そう聞かれてはっとなった。
そう言えば瑠華には言ってなかったっけ。
「…あー…あいつら、その…付き合ってるんだよ」