柏木さんはちょっと困ったように眉を寄せて、一同を順々に見渡す。
「えっと……本当にないんです」
ガクリ
俺と裕二、佐々木は同じタイミングで同じように頭を垂れた。
好きなタイプがなけりゃ戦いようがない。
敵を知らなければ、必勝法も掴めない。
「でも」
柏木さんの言葉がぴくりと耳についた。
「苦手なタイプはあります」
「え?どんなん?」
裕二がいち早く聞いた。
「…………お金持の人。それから子供好きの人」
柏木さんの言葉に場がしんとなる。
え―――?
「えっとそれはどういう……」
と言いかけて、ぷっと斜交いで裕二が吹き出した。
「お前ダメじゃん?」と目が笑ってる。
うっせ!お前も持ってんだろ、金!!
「か、柏木さんだって金持じゃん」俺は苦し紛れに言うと、無理やり笑顔を作った。
上手く笑えてるかどうか分からない。
「戦う為の軍資金を持っている人が嫌いなんです。でも私のは守る為……
生きていくうえで身を守るためのものですから」
柏木さんの言った言葉は、まるで難解不可解な謎のように思えた。
この頃の俺は、柏木さんの言葉に深い意味なんてない。ただの抽象的な意味合いを持つだけのものだと思ってたけど……
この言葉にどれだけの重みがあるのか知らされるのは―――
もっと、ずっと後のこと……