「一点ものも、もちろん素敵だと思うのですが、もう少しコストを落として東星紡ラインの新しく開発されたセルロースと混合の合成シルクでドレスを作成するのもいかがですか?」


「合成シルク…?」


香坂さんが首を傾けて、俺の方を見る。


「ええ、今エジプトなどで開発が進んでいるものですが、光沢も手触りもシルクそのもので、しかしコストは100パーセントのものより3分の2で抑えられます。

東星紡さんはこちらを押しているわけですが」


そう言って俺は借りてきたサンプルの布を貼ったファイルを香坂さんに差し出す。


ファイルを受け取った香坂さんはそれを開き、布を手で優しくなで上げた。


「あら…ほんと……」


「今回間に東星紡さんを挟むことは必須です。ですから2ライン出されて、それぞれの良いところを採用されてはいかがですか?一度東星紡さんと取引をされると、次回も多少融通が利くかと思いますし。


輸入品でないので、多少時間にゆとりがあります。こちらは工場も大きいので量販が可能かと」


「そうですねぇ」


香坂さんはちょっと目を細めた。


考えているようだ。悪い話ではない。でも、決定するには何か欠けているものがある。


そんな感じだ。


くそっ。


ドレスの生地の良し悪しなんて俺にはわかんねぇんだよ。


何か…何か他に推し進めることは……





「結婚式は一生に一度のものです」


隣で黙っていた柏木さんが静かに口を開いた。