お茶が運ばれてきて、柏木さんは書類をバッグから取り出した。
「早速ですが、先日ローズウッドに話を致しました。ローズウッドは繊細なレースや刺繍が売りの会社ですよね」
「ええ、そうなんですよ~。私もあのレースを花嫁のベールに取り入れられたと、ずっと考えてましてね」
香坂さんはうっとりした表情で宙を見上げた。
「わかります。ご存知かと思いますが、あちらはとても小さな工場で職人さんが一針一針丁寧に仕事を進めていく工場です。ですので、大量生産と言うわけにはまいりません」
「ええ、ええ」
柏木さんの説明に香坂さんは相槌を打った。
「ですのね、コンセプトを変えてみてはいかがでしょう?ドレスを一点物のオートクチュールのようにしてみるのは」
「オートクチュール…」
香坂さんは考えるように口の中で復唱した。
ここまでは打ち合わせ通り。柏木さんの説明は淡々としているが分かりやすく、相手の心にすんなり落ちたようだ。
「ええ、多少値が張りますが、一生に一度の晴れ姿です。花嫁の…世界で一番幸せになった気持ちを演出するのに、一点ものという響きは女性にとって幸せを増徴するものだと思います」
柏木さんの言葉に香坂さんが目を開いていた。
正直俺だってびっくりだ。
柏木さんは以前「結婚は墓場」だと豪語したぐらいなんだから、花嫁の気持ちなんて知る筈もないし、知るつもりもない…なんて俺は勝手に思い込んでいたから。
「わ、分かります!女性って限定物とか好きですものね」
香坂さんが食いついてきた。
どうやらフォーメーションBは順調のようだ。
さて…
ここからが本番。