「遠路はるばるご足労いただき感激しています。
どうぞ我が城にて疲れを癒し、ユラ王女によりよい報告がゆくことを願うばかりです」


隣国についた私たちは早速、王子の御前で条件その2・イル隊長とその妻エルシャを演じた。


「ありがとうございます王子。
私と妻のエルシャは、我が国の王女に真実を伝える為に参りました。
どうぞ、それをよくよく加味した上で私たちの行動や発言をご容赦ください」




うわ本当にこの隊長って何なんだろうか。

兵士とは思えない演技力。好青年風の爽やかな笑顔。そして、この女慣れ感。


いや、まぁ、『妻』だし?仕方無いんだけどさ…腰にがっちり手を回されちゃあねえ?


「おい。こら。目がすごい冷たいんですけど『奥さん』?」


思いの外顔に出ていたらしい。小声でこんなことを呟かれた。


「女タラシ…」


「はぁ!?」


「どうかないましたか?」


私が小声で呟いた感想に、案外驚いたのか、イルが少し大きめの声を出した。そんなに驚くことなのだろうか?

しかし目の前にいる王子は、どうしたのかといぶかしんでいる。危険だ。


「いいえ申し訳ありません、なんでも無いのです。
私たち二人の間の、他愛ない話ですから…ね?あなた」


我ながらちょう頑張って猫被った。腕は微妙に鳥肌がたっている。


しかしにっこり笑ってイルを見れば、一瞬惚けた顔をしてから、同じように笑った。


「ええ。申し訳ありません。
妻があまりにもかわいかったもので、驚いてしまいました」


鳥肌が増した。うすら寒いなこの演技。早く終われえええ。


いっぱいいっぱいだった私は気づかなかった。
王子が一瞬、目を細めて私を見つめていたなんて。