洗面所を出ると、部屋中にコーヒーの匂いが立ち込めている。



「はい。」



男がコーヒーを差し出した。



「…ありがと…。」


素直に受け取り、キッチンの椅子に腰掛ける。


一口飲むと、香ばしい匂いと独特の苦味が口いっぱいに広がった。



「…おいしい。」



「落ち着いた??」



男が尋ねる。私は軽く頷いた。



「そっか。良かった。お前、名前は?」



「佐々木莉子(りこ)」



「俺は、市原翔(しょう)」



男…―翔は、タバコに火を点けながら言った。



「…ここ、翔…さんの家?」



私は部屋を見回した。


「翔でいいって。―そ。ここ俺ん家。」



「一人で住んでるの?」


「ん?ああ。」



部屋の中は男の一人暮らしとは思えないほど綺麗だった。