「───さて、今日はどの曲がいいのかな?」


弥琴はあたしの瞳を覗き込んだ。
昔からそう。二人で話すとき、必ずあたしの目線に合わせてくれる。



「…いつものやつ。」


弥琴の視線が恥ずかしくて、ちょっとぶっきらぼうに答えるあたしにふわりと微笑んで、了解、と呟く。








その瞬間。



あたしは弥琴の魔法にかかる。











あたしはクラシックなんて全く興味がないし、知識もない。
けど、弥琴の演奏が誰よりもきらきら輝いていて、誰よりもあったかいってことくらい、わかる。



あたしはこの“いつもの”曲がだいすき。
昔からよく弥琴が弾いてくれたこの曲。
実は曲名すら知らないけど、いいんだ。
あたしにとって大事な曲ってことに、変わりはないから。
だから、あえて聞かない。




弥琴の指先が、鍵盤を撫でるように奏でる。愛でる。






───────綺麗……