真希の話によると、今日は朝からどのニュース番組もこの話題で持ちきりらしい。




もう一度週刊誌の写真を見ると。





日向の隣で笑いながら歩いてる女の人は、今ドラマで日向と共演している人気の女優さんだった。





スタイルもいいし、すごく美人で、大人っぽい雰囲気のある女優さんだ。





この人に比べたら、きっとあたしなんてまだまだ子供。




だから、日向もこんなあたしなんて飽きちゃったのかな……。




「ありがと真希……」





「は、なにいってんの? あたし、奈央にお礼言われるようなことなんてしてないし……こんな奈央が辛いときに、何もしてあげれないし………」




「そんなことないよ……きっと、こうやって真希がそばにいてくれなかったら。あたし、不安でどうしようもなかった……」





友達なのに、こんなに親身になってあたしの心配してくれるなん………。





「実は、昨日も日向帰り遅かったんだ……」




あたしは、真希に昨日の出来事を話した。




理由を聞いたら、なんでもないと返されたこと。





抱きついたとき、また違う人の香りがしたこと。












「辛かったね、奈央……」




真希も涙目になりながら、あたしの話を聞いてくれた。





「どうしよう……真希。あたし、今日から日向とどう接すればいいの?」





少し落ち着いて、すっかり紅茶が冷めた頃。




「あたしは……確かにこんな写真があるんじゃ説得力ないかもしれないけどさ」





「………うん」





「この写真がすべてって訳じゃないでしょ? "熱愛"なんて、ただ記者がおもしろおかしく書いただけだし。やっぱり、ホントのことは、日向くんにしか分からないと思う」




「…………うん」




「ちゃんと話そ? 日向くんと」




でも…………。




「日向の口から、ホントの事を聞くのが怖い………」





この写真を見て、コレが全てだよ。




なんて言われたら………あたし、怖いよ。





「怖くても、勇気ださなきゃ。このまま終わっちゃうなんて嫌でしょ!? ちゃんと日向くんの口から聞くまで信じなよ!! こんな週刊誌と自分の愛した人……どっちを信じるの!?」








真希は、本気で弱音を吐くあたしを叱った。















あたしは…………。







「日向を………信じたい」







怖いけど。






辛いけど。







このまま終わっちゃう方が絶対イヤ。









前に日向が言った『俺はずっと奈央のそばにいるから』って言葉。











あたし………信じてるよ?














》》日向side






くそっ……はめられた………。



全部アイツの作戦だったんだ。




なんで気づかなかったんだろう。




今日発売の週刊誌を見ながら、俺は拳を握りしめた。




俺が夏紀と熱愛?





ふざけんなよ………。







俺が好きなのは……愛してんのは奈央だけなのに。









ことの始まりは、二週間前のドラマ撮影が終わった後だった………。












二週間前。





「おつかれっした!!」




「おぅ、日向。明日も頼んだぞ」






「はい! それじゃ失礼します」




午後六時、今日の分のドラマの撮影が早めに終わり、俺は監督に頭を下げて収録スタジオを出た。





今日は早めに帰れそうだな。





あ〜、早く奈央に会いてぇ。




マネージャーの中津に連れられて、俺はテレビ局から出ようとした。





「あのっ……藍川さん!!」




ん?





呼ばれたほうを見ると、そこにいたのはさっきまでスタジオで一緒だったドラマ共演者の夏紀。





「おう、おつかれ」




「おつかれ様です」





今人気の女優で、確か俺より二歳下。




身長も高い方で、整った顔立ちをしている。




なんつーか、美人タイプ?






綺麗な人だと思うけど、俺は奈央みたいな可愛い系のほうが断然いい。





ていうか、奈央以外はあんまり可愛いとおもんない。















夏紀は、共演するようになってからドラマの収録の合間に話すようになったけど、礼儀正しくていい奴だと思う。





でも、和也によるとあんまり関わんないほうがいいらしい。





俺には、あんまりその意味は分かんなかったけど……。





「藍川さん……あの、ちょっとお時間良いですか?」




「あ、えー……と」





できれば早く帰って奈央に会いたいし……。




俺が戸惑っていると





「少しでいいんですっ……。あたし……都会に上京してきてから、相談できる人があんまりいなくって……藍川さんならいつも優しいから、相談にのってくれると思って………」





夏紀は泣きそうな顔でそう言った。




うぅ……。




参ったな……女に泣かれんのがいっちばん嫌いだ。





俺しか頼る人がいないと泣き目で言う夏紀を、俺はほっといておけなかった。




今日は早く終わったから、少し時間に余裕もあるし……。




「悪い、中津。ちょっとだけ待っててくれるか」





俺は車の準備をしようとしている中津にそう伝えて、夏紀の頼みを渋々了解した。













相談があると言われても、二人でそこらへんの喫茶店にいるところを見られたりしたら、変に騒ぎたてられるし。




俺は中津に事情を説明して、テレビ局の開いてる部屋を貸してもらった。






ココなら別に見られたって騒ぎ立てられたりはしないし。





「で、相談って?」




俺は設置してあるパイプ椅子に座って、うつむく夏紀に話しかけた。





「実は………」




ゆっくりと話し始めた夏紀の相談の内容は、こういうものだった。





夏紀は、半年前から付き合っている年上の彼氏がいるらしい。




最初の頃は、優しくて誠実な人だったんだけど。




最近仕事をリストラされた彼氏は、酒に溺れるようになって酔うたびに八つ当たりで夏紀に暴力をふるうようになった。





酔いが冷めると、ちゃんと謝ってくれて、もうしないからと約束をするが。




また酒をのむと、そんな約束なんてなかったかのようにまた暴力をふるう。





それがここ二ヶ月続いていて、遂に我慢できなくなった夏紀は意を決して、別れを切り出した。




けど、彼氏は聞く耳も持たず。もう暴力をしないから、別れたくないと別れさせてくれなくて。





けど暴力をやめるわけでもなく、夏紀はもう限界だと。





途中で目から雫をこぼしながらも、語り続けた。












そんな辛いことがありながらも、芸能活動を続けていたことを考えると。




さすがの俺も、少し可哀想な気がしてきて。






「お願いします……藍川さん。こんなこと頼めるの藍川さんしかいないんです………。嫌な思いするかもしれないけれど。あたしの新しい彼氏役になって、今の彼氏にあきらめさせていただけませんか……?」








大粒の涙を流しながらそういう彼女を、俺は人として、放っておくことができなかった……。







「………わかった」







ごめん、奈央。





この時、もっと早く気づいてればお前を傷つけることなんてなかったのに。









もっと不思議に思えば良かったんだ。











泣きながら話す夏紀に、暴力を振られたよう傷なんて一つもなかったことに………。














まず一回目に遅くなったのは、それが原因。





夏紀が泣き止むのに、予想以上に時間がかかってしまい……すっかり帰るのが遅くなってしまった。






メールで、遅くなるから先に寝てていいと連絡したはずなのに。





夜中に明かりをつけて、ご飯も食べずに俺を待っていた奈央を見ると、本当に愛おしくなった。






意外とヤキモチ焼きな奈央は、理由があったにしろ、俺が今まで女と二人だったなんて聞いたら、絶対不安がるだろうと思ったから。





何を聞かれてもごまかした。





けど、俺が奈央を想ってしたことは、逆に奈央を不安にさせてたんだよな。






………ちゃんとごまかさずに言えば良かったんだ。







傷つけてごめんな………奈央。