「ダメっ……日向っ……あのね………っ」
パニクったあたしは、うまく言葉にできなくって………。
「ごめん奈央〜…………」
「あ」
戻ってきた真希を見て、やっと状況に気づいた日向も拍子抜けの一言を発した。
結婚して約2ヶ月……。
『ワケアリ夫婦』
いよいよバレてしまいました……。
「お……じゃましまーす……」
「ちょっと散らかってるけど、どうぞ」
とりあえず、あのままあそこにいるわけにもいかず……部屋に真希を上げて、にこりと微笑む日向。
リビングに真希が入ったのを確かめて、あたしはぐいっと日向を隅っこにひっぱる。
「部屋にまで連れて来ちゃって……どーするのっ!?」
「どーするもなにも、説明するしかなくね?」
「……だよね………」
日向の事務所からだされた条件。
『絶対秘密にすること』
これが守れなかったら、本当にあたしたちどうなっちゃうんだろ……。
「だ、だいたい日向があんなとこで抱きつくからっ……(泣)」
「新婚がいちゃついて何が悪いの〜。大丈夫、俺が絶対なんとかするって」
そう言った日向は、やっぱり頼りになる。
ソファーの下に座る真希。
あたしと日向は、テーブルを挟んでその向かい側に並んで座る。
「あの……ね、真希」
「すごい………」
「……………へ?」
無表情なままの口から、意外な一言。
真希の目はなぜかキラキラしてる。
「ま……真希?」
どうしたんだって感じで日向はあたしをみた。
いやいや、あたしこそどうしたんだだよ。
「奈央っ!!」
「はいっ……!?」
いきなり立ち上がる真希にあたしも日向も、一瞬ビクリと跳ね上がる。
「あの有名な藍川日向と付き合ってるなんてっ……超すごいじゃんっ!!」
と言ってあたしに抱きついた。
「わっ!!」
「え……意外な反応」
その横で困惑してる日向。
いやいやいやいや、あたしだってびっくりしてるんだけど……。だって………。
「真希、怒ってないの?」
「えっ、なんで?」
恐る恐る聞くあたしに、真希は本気で驚いた顔をした。
「前に、真希が日向のこと好きって言った時。あたし、このこと隠してたし………」
そう。
あの電車の中で、目をハートにして日向が好きと言った真希を、あたしは思い出す。
「ばーか! そんなこと気にしてたの? 友達の幸せ応援するのが当たり前じゃんっ!!」
そう言った真希は、本気であたしを応援してくれて。
「真希ぃ〜……」
感激したあたしは、ぎゅっと抱きしめかえす。
日向との関係を言ったら、絶対嫌われる。
なんてあたしの臆病な考えを、真希は一瞬で吹き飛ばしてくれた。
あ、そうだ。
「あのね、あたしと日向のことは………」
「誰にも言わないで。でしょ?」
あたしの言葉を遮って言った。
「う、うん」
「言うわけないじゃんっ!! 秘密は守るよ?」
よかったぁ………。
きっと‥‥‥いや、絶対真希は信用できる。
だって、秘密にしてたあたしのことを怒らずにいてくれた。
あたしたちのことを本気で応援してくれた。
なにより、あたしたちの幸せを、自分のことのように喜んでくれた。
そんな真希を見て、そう確信した。
「俺からもお願いね♪」
と言って営業スマイルをした日向に。
「は、はひっ///」
顔を真っ赤にして、噛み噛みの真希。ぷぶっ。
今まで、あんまり関わりのなかった真希だけど。
話してみるといい子だし、自分の感情を素直にだしてくれるし、あたし仲良くできそうかもしれない。
「あ、ママに早く帰って引っ越しの片付けしろって言われてたんだ。あたし、そろそろ行くね」
時計を見た真希は、そう言ってカバンを持ち上げた。
「真希の部屋って何階?」
「六階!!」
「じゃあ、あたしたちの一つ下の階だ。そこまで送るよ」
あたしと真希は、部屋からでて六階まで階段で下りた。
「いやぁ、ほんとにびっくりしたなぁ……奈央があの藍川日向と付き合ってるなんてさ〜」
あ、大事なこと言ってなかったっけ………。
「付き合ってる……ていうか。一応……結婚してるんだよ……ね」
「…………ぇぇえっ!?」
またもや驚く真希。
「その若さで!?」
なんてまるでおばさんのようなことまで…………。
「う、うん」
「嘘!? まさか……デキ婚とかっ!? ぇぇえッ! うそーっ!? その割にはお腹出てなくない!? あ、もしかして騙されてるんじゃ……」
「ちょ、ちょっと! 真希ストップ!!」
驚きのあまりに一人でドンドン話を進める真希に、あたしは慌てて真希の口をふさぐ。
「誰もデキ婚なんて言ってないし、騙されてもないから……! 一回落ち着いて?」
「んぐっ……」
あたしの手によって口をふさがれた真希は、思い切り頭を縦に振った。
それを見てあたしは真希から手を離す。
「っぷは……ほへぇ〜!じゃあ、妊娠はしてないのね!?」
「うん、さすがにまだ高校生だし………」
「いや、高校生で結婚してるだけでもすごいけど………え、じゃあ名字は?」
納得したかと思うと、また次々と出てくる真希の疑問。
「一応、学校とかでは旧姓の"今井"のままだけど。本当は藍川ってなってる」
「そうだったんだぁ。今日はびっくりすることいっぱいだなぁ」
「ありがとうね、真希」
真希に喜んでもらえて、ほんとに心が軽くなったっていうか。
「あたしね、もっと奈央と仲良くなれそうな気がするなぁ。奈央って、学校では普段大人しいしあんまりしゃべらないけどさ。すごい可愛いし、今日話してみたら、意外とおもしろいとこあるしっ(笑)前から仲良くなってみたかったんだよね♪」
そう言った真希は、またえくぼを見せて笑った。
「あたしも、真希ともっと仲良くしたいっ……」
そう思い切って、言ってみたら。
「ふふっ、家も近くなったし。2人の秘密もできちゃったしね〜。部屋が片付いたら、あたしの部屋にも遊びに来てね!」
と言ってあたしに手を振りながら、廊下を歩いていった。
ほんとにいい子なんだなぁ。
改めてそう思ったあたしは、部屋に帰るためにまた階段を上がっていった。
「いい友達持ったな〜」
部屋に帰ると、一番最初に日向がそう言ってくれた。
「うんっ。とにかく、秘密にしてもらえて良かったよ〜。真希じゃなかったらどうなってたか……」
「まぁまぁ。一件落着っつーことで」
「ほんっと、日向って呑気……」
「はいはい♪次からは気をつけますっ」
「ぜひ、そうしてください」
あたしはそう言って日向の背中に寄りかかった。
「どした? つかれた?」
「なんか、いろいろホッとした」
安心してるあたしの顔を見て、日向はあたしをスッと抱き寄せた。
「大丈夫だってば。俺は何が何でも、奈央のそばにいるから」
「日向………」
あたしと日向は見つめ合い……。
「そろそろ仕事の時間だよ………」
「あ………」
ワケアリ夫婦はまだまだ波乱が起きそうな予感です……。